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社説・コラム

社説 茨城・内部被曝事故 ずさんな作業 信じ難い

 茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構「大洗研究開発センター」で作業員らが被曝(ひばく)した事故は、国内最悪の内部被曝の様相を示している。

 1人の肺からは2万2千ベクレルのプルトニウム239が計測され、体内に取り込まれた放射性物質の総量は推計で36万ベクレルに上る。専門家が見立てる通り、半端な被曝量ではない。ほかの作業員も内部被曝しており、原因究明が急がれる。

 長期間にわたってアルファ線を出し続けるプルトニウムは、体内に取り込まれると臓器や細胞へダメージを与える。特に肺への付着は発がんリスクを高めるという。被曝した5人は、すぐに医療施設に運び込まれた。今のところ、体調不良を訴えていないというが、この先は分からない。健康被害が心配だ。

 厳重に管理してしかるべき原子力施設である。なぜ、こうした事故が起き、被曝を食い止められなかったのか。

 原子力機構の説明では、6日午前、点検のためにプルトニウムなどの粉末試料が入った金属容器を開けた際、中のビニールバッグが破裂。機構職員や協力企業社員ら作業員5人は防護服を着て、鼻と口を覆うマスクをしていたが、飛び散った試料を吸い込んだらしい。

 作業用マスクにもかかわらず、なぜ多量の放射性物質がすり抜け、肺まで届いたのだろう。被曝の恐れがある場合、通常は顔の全体を覆うマスクを装着する。装備は作業に見合うものだったのだろうか。

 当初は「通常通りの作業」「破裂は想定外」との説明だったが、きのうになってこの容器は26年間、一度も開封されていなかったことが明らかになった。「点検の期間や頻度を定めた要領自体がなかった」との釈明には、開いた口がふさがらない。あまりにずさんである。

 危険な物質を扱っているという意識の欠如や、心の緩みはなかったのか。原子力規制委員会の田中俊一委員長も「プルトニウムに慣れ過ぎてしまったのではないか」と指摘している。

 原子力機構を巡っては、安全管理の不備がたびたび明らかになっている。2013年には茨城県東海村の実験施設で放射性物質が漏れ、研究者ら34人が内部被曝した。運営する高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)では1995年に大規模なナトリウム漏れを起こして以来、トラブルが続き、12年には約1万点の機器点検漏れが発覚。原子力規制委から「安全に運転する資質がない」とまで言われ、政府が廃炉を決めた経緯もある。

 そこに今回の事故である。点検作業は、原子力規制委による改善指示の一環だった。現場の施設は廃止の方針が出され、放射性物質の保管状況など確認を進めている最中だった。今回破裂した容器を含め21個の点検を予定し、その1個目で最悪の事態が起きた。

 放射性物質を扱う作業は常に危険と隣り合わせだ。再三にわたり、ずさんな管理を問われながら、「想定外」という弁明はもう許されない。作業員や周辺住民の人命を第一とする心構えを再確認する必要がある。

 事故の経過や原因を徹底的に解明し、再発防止を急いでほしい。規制委には、さらに厳しい目を向け、一層の引き締めを図るよう指導を求めたい。

(2017年6月9日朝刊掲載)

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