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[核なき世界への鍵] 核兵器禁止へ 不断の努力 条約草案 15日から制定交渉会議

 広島、長崎の非人道的な原爆被害を教訓に、国際社会が制定を目指す「核兵器禁止条約」。草案(全21条)は前文で被爆者の苦しみに触れ、第1条で核兵器の使用禁止をうたい、全ての国の加盟を目指す。ポイントを整理し、15日に始まる第2回制定交渉会議の議論を展望する。(金崎由美、水川恭輔)

前文 被爆者の苦難に触れる

 被爆者の苦しみや放射線による健康被害など、核兵器がもたらす非人道的な影響に触れ、再び使われないための不断の努力を訴えている。また、いかなる使用も国際人道法を含む今の国際法の規則に反すると宣言。保有国などが逆手にとって「条約に入らなければ、使用は合法」と言い逃れるのを防ぐ意味がある。

 保有国や日本の政府は、禁止条約により核拡散防止条約(NPT)体制が不安定になると反発しているが、核軍縮の誠実な交渉義務を定めるNPTをむしろ補完、強化するという立場を鮮明にしている。

第1条 「いかなる場合にも不使用」明文化

 締約国はいかなる場合にも核兵器を使用しないと明記したのが最大のポイントだ。NPTを含む既存の条約で明文化されていない。使用を国際法に一般的に反するとした1996年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見も「国家存亡の機の自衛の極限状況」は判断できないとしただけに、草案は使用の「完全禁止」をうたったといえる。

 禁止対象の核実験は、既にある包括的核実験禁止条約(CTBT)に従い「爆発を伴う核実験」と定義。米国が繰り返す臨界前核実験は「開発」の禁止で網を掛けられる見方があるが、議論の余地がある。

 一方で「使用の威嚇」は禁止事項に記されていない。使用と保有の禁止が記載されており威嚇も法的にできなくなるとも解釈されるが、核抑止力の否定を強調する意味で、明記を望む声が日本の非政府組織(NGO)などに根強くある。

 米国の核抑止に安全保障を頼る日本。草案では、核兵器使用などのために支援を求めたり受けたりする行為も禁止対象となり、これらに反するとみられる。条約加盟には、「核の傘」脱却の決断が欠かせない。

第4・5条 保有国参加 二つの道

 核保有国が条約に参加する手だてを4条と5条で2通り描く。ただ、非保有国主導で禁止を先行させる分、保有国の関与が不可欠な核兵器の廃棄と、それを確かめる検証の措置は煮詰まっていない。

 4条は、核兵器を全廃した上で条約に加盟する原則論に立つ。「元保有国」は国際原子力機関(IAEA)による核関連施設の検証を受けるよう規定。91年に全廃した南アフリカの例を想定している。ただ、同国ではノウハウのある他の保有国が検証に関与しており、IAEAだけでは現状、技術的に困難とみる専門家もいる。

 5条は、当面条約に加盟しなくても、保有国が締約国会議などに参加して核軍縮を進める流れを念頭にする。柔軟に交渉し、時間枠を設けた廃絶計画やその検証を定めた追加議定書に合意しながら、条約加盟にこぎ着ける。どの段階で加盟を認めるかなどの制度設計を今後どう深めるか、重要視する声は関係者に多い。

 非保有国も、加盟時にIAEAの保障措置を受託する。核物質の軍事転用がないかどうか、NPT体制の運用基準で検証を受ける。

第6条 被害への償い盛る

 核使用・実験の被害者に対する医療、心理的支援や、汚染地の環境回復などの援助を盛り込んだ。償いの大きさが核兵器の非人道性、違法性を強調する効果がある一方、援助義務を負う主体や過去の被害にさかのぼるかどうかが不明確との指摘がある。

 締約国は、条約の禁止行為を防ぐための立法上、行政上の罰則を含む国内措置を取るとも定める。条約制定を推進するNGOには、核関連企業への出資禁止などで社会規範を広げるよう期待する声が強い。

第9・16条 40ヵ国締結で発効

 「40カ国の締結」で効力が生じるとした。96年に国連総会で採択されたCTBTは保有国を含む特定の44カ国を定めたが、米中などが今も批准せず、166カ国が批准しても未発効。その教訓を踏まえ、一定数の非保有国で早く発効できる要件を探ったとみられる。

 2年ごとの締約国会議と発効5年後からの再検討会議には、保有国や「核の傘」の下にある非締約国のオブザーバー出席を招請する。ただ、会議開催といった費用負担などが課題になるとの見方もある。

139ヵ国「支持」 40ヵ国「不支持」

 139カ国が「支持」、16カ国が「不明確」、40カ国が「不支持」。

 NGO(非政府組織)の「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」は、禁止条約の交渉開始を定めた昨年の国連総会決議案への賛否や、今年3月の第1回交渉会議の出欠などから制定への情勢をこう捉える。

 第2回会議で条約成案が採択されれば、推進国は今秋に始まる国連総会での条約案の採択を目指す。

 条約の法的拘束力は締約国しか及ばず、実効性は問われる。先月にオーストリア・ウィーンで開かれた2020年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第1回準備委員会でも米国、ロシアなどは制定に反発した。岸田文雄外相は準備委で、段階的な軍縮を進めて核兵器が極めて少ない数まで減った上での法的枠組みの導入を主張。対立の解消を目指す賢人会議開催などを提案した。

国際反核法律家協会理事・山田寿則氏に聞く

「核の傘」依存とは両立せず

 条約草案にみる制定意義と課題を、国際反核法律家協会理事の山田寿則・明治大兼任講師(国際法)に聞いた。

 NPTにない核兵器の使用、開発、生産の禁止を明記し、水準はとても高い。威嚇を明示するかなど細かい争点は残るが、保有国や「核の傘」へ頼る国の核政策とは両立しない内容だ。

 いかなる核使用も現行国際法に照らして違法だという法解釈を基に草案を作っている点が重要だ。国際法順守の必要性はNPT再検討会議でも確認されている。禁止条約に加盟しない保有国などは、核使用が違法でないのかNPTの場でも説明責任を問われ、廃絶へ圧力になり得る。

 被爆者への言及は、被爆者の草の根の努力を、核使用の違法性と廃絶の要請を強める「公共の良心」として法的に位置付けている。

 保有国の参加をどう促すかは課題だ。例えば、締約国グループがNPTより高い水準の検証を受け入れて不拡散義務を守る代わりに保有国に核軍縮の進展を求めるといった手がある。

 核兵器の非人道性や禁止の必要性について地道に理解を広げる活動も鍵だ。次回交渉では軍縮教育につながる規定を充実させる議論を期待したい。交渉に不参加の日本政府がすぐに貢献できる分野でもある。(談)

(2017年6月11日朝刊掲載)
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