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社説・コラム

社説 核兵器禁止条約 交渉 今からでも参加を

 最終仕上げに入ったと言っていい。国連で制定交渉が第2回に入った核兵器禁止条約だ。草案では、使用はもちろん開発や製造、保有も認めない。核兵器を非合法化する初の国際法だ。核抑止論に立つ日本政府をよそに、被爆地の願いや訴えがようやく一つの形になる。

 40カ国が批准すれば発効する。非政府組織(NGO)などの見立てでは、既に条約賛同国は100を超す勢いだ。米国やロシア、中国などの核保有国や「核の傘」の下にいる日本や韓国などは不参加ながら、来月7日の会期最終日までの条約採択はもはや揺らがないだろう。

 米国による広島、長崎への原爆投下から72年になる。長い歳月がかかったが、国際社会を動かしたのは、紛れもなく被爆者の声である。その証拠に、交渉議長国コスタリカが示した条約草案の前文には「ヒバクシャ」の文言が盛り込まれている。

 広島、長崎の被爆者や核実験被害者の苦しみに触れ、続く条文で「支援」の必要性にも言及した。きのこ雲の下で生き地獄を体験し、今なお放射線の健康被害に苦しむ人々の思いを酌み取った草案を高く評価したい。

 核廃絶に向け、策を巡らした草案でもある。「核使用の威嚇」を明確に禁じる言葉こそないものの、「核の傘」の下にいる国も念頭に禁止行為を支援したり、奨励したりする行為も禁じる。核保有国とその同盟国が正当化してきた「核抑止論」への果敢な挑戦といえよう。

 条約に賛同する国からは「威嚇の禁止も明記すべきだ」との声も出ている。爆発を伴う核実験は禁止するものの、臨界前実験を除外したことへの反発もある。議論すべき点は多い。

 本来なら先頭に立つべき日本が交渉のテーブルに着こうとしないのは残念でならない。特に被爆地では憤りや失望が強い。

 日本政府は、核保有国抜きで交渉を進めれば「非保有国との溝が深まる」との考えで、3月の第1回交渉開始時に不参加を唱えてから背を向けたままだ。きのう、岸田文雄外相はあらためて不参加の理由を説いた。

 確かに、北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返し、中国脅威論が高まる中、防衛力強化を求める意見もある。だからといって、対応手段は核兵器ではないはずで、話し合いの外交努力を尽くすべきだ。ましてや戦争被爆国が「非核」の国是を踏みにじることは許されない。

 このまま日本が核兵器禁止の法的理念を真っ向から否定する態度を取り続ければ、北朝鮮も「必要悪」と訴え、その使用すら正当化する口実を与えることにもなりかねない。

 米トランプ政権も核戦力強化を唱えるなど核拡散リスクは冷戦後、最も高まっていると言っていい。日本政府が唱える段階的削減論とは残念ながら逆方向に向かっている。「脅し、脅される」緊張がこれ以上高まれば発射ボタンに指を掛ける指導者が出てきてもおかしくない。人類全体の脅威を取り除くためにも全面廃絶の機運を高めたい。

 今からでも遅くない。日本は交渉のテーブルに着き、被爆者の力を借りながら、保有国がいずれ条約に加わるよう環境整備に努めるべきではないか。今や廃絶論は世界の多数派である。一歩踏み出す覚悟が、日本政府に求められている。

(2017年6月17日朝刊掲載)

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