×

社説・コラム

社説 日米原子力協定 「再処理」見直しが先だ

 米国から濃縮ウランや原子力技術を提供してもらう代わりに、核拡散防止の観点から関連機器や核物質の扱いで規制を受ける日米原子力協定が、来年7月で30年の期限を迎える。

 この協定により、日本は非核兵器保有国には本来許されない原発の使用済み核燃料の再処理を特権的に認められてきた。プルトニウムを取り出して再利用する構想を描いたが、今なお実現していない。日本政府は協定の今後を考える前に、再処理や核燃料サイクルを含めた原子力政策全体を見直すべきだろう。

 特に高速増殖炉は、運転しながら燃料のプルトニウムを増やせるため「夢の原子炉」と呼ばれたものの、原型炉もんじゅはほとんど稼働しないまま廃炉になる。実用化していれば、輸入依存のエネルギー資源を「国産化」できる見立てだった。ただ、どの国もうまくいっていない。再処理政策は破綻したと言わざるを得ないのではないか。

 もんじゅの失敗で、兵器に転用できるプルトニウムをため込む事態に陥った。使い道がないのに大量に保有しているため、いつでも核武装できる潜在能力を日本は維持しているとの疑念を国際社会から向けられている。テロリストに狙われないよう十分な警戒も欠かせない。

 この協定が発効した1988年以降、東西冷戦体制が崩壊するなどで核を巡る国際情勢は大きく変化した。インドとパキスタン、北朝鮮が核実験を強行するなど懸念されていた核拡散が現実のものとなった。旧ソ連のチェルノブイリ原発や日本の東京電力福島第1原発で史上最悪クラスの事故が発生した。

 そうした被害の甚大さを重く見て、脱原発にかじを切る国も増えている。日本政府は、この30年に国内外で起きた激変を踏まえて、あらためて協定の必要性や、原子力の在り方を考え直すことが筋だろう。

 ところが、日本政府にそんな覚悟はうかがえない。期限を示さずに協定を更新する「自動延長」を軸に米国と交渉する方針という。選択肢は他にもある。例えば終了なら、日米のどちらかが文書で通告したら半年後には実現できる状態になる。長期延長や大幅改定であれば、両国政府間の交渉や両国議会での承認などハードルは高くなる。

 現在の協定を結ぶ際、プルトニウム輸送の危険性や核拡散への懸念などから米国議会では反対論が上がり、承認手続きが難航した。米国では今も、核拡散防止の観点から再処理自体に反対する声は根強い。むしろ余剰プルトニウムが約48トンと核兵器6千発分に達した日本の現状を考えると、さらに視線は厳しくなっているかもしれない。

 トランプ米政権では、国務省やエネルギー省をはじめ関連部署の態勢が十分整っていない。本格的に交渉するのが難しい面もあるだろう。ただ、それをいいことに、国際的に批判の多いプルトニウム問題の議論を避けようと、日本政府がもくろんでいるとすれば、許されまい。

 国内でも米国との交渉でも透明性のある議論が求められる。まずは再処理や高速増殖炉について、技術的に可能なのか、経済的に見合うのか、そもそも何のために必要なのか。さらに核のごみをどうするか。そうした基本的な課題から議論することが不可欠である。

(2017年6月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ