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[インサイド] 国と協調 地ならしの末 岩国市長 艦載機受け入れ 

市、手厚い対策費獲得 騒音・治安 残る課題

 米海兵隊岩国基地(岩国市)へ空母艦載機61機が移転する計画について、岩国市の福田良彦市長は23日、移転容認を表明した。10年余りの曲折の中で、市は国との協調路線への転換を機に多額の財政支援を得る一方、移転に伴う騒音、墜落事故や治安の課題を積み残す。極東最大級の在日米軍基地化を招くトップ判断の舞台裏では、「容認」への地ならしに奔走する市や山口県、国の姿も浮かんだ。(松本恭治、馬上稔子、藤田智)

 「審念熟慮した結果、受け入れることとする」。傍聴席の埋まる議場で、福田市長はその一言を発した。

 艦載機移転案は2004年7月、在日米軍再編を巡る日米協議の報道で浮上した。国は、米海軍厚木基地(神奈川県)に代わる艦載機部隊の受け皿として、滑走路が沖側へ移る岩国基地に目を付けた。「寝耳に水」の地元は反発。だが、市新庁舎の建設補助金を凍結するなどした国の強硬姿勢に、「現実的対応」の声が出始める。移転反対を掲げた当時の井原勝介市長と市議会多数派の亀裂も深まり、市政は混迷を極めた。

市長交代が転機

 転機は08年2月。移転容認派が推す福田市長の登場だった。国防や米軍再編への「理解と協力」を示し、国から手厚い財政支援を受ける―。県とも歩調を合わせた手法は事実上、移転前提の条件闘争にも映った。

 最たる「成果」が、米軍再編交付金だ。新市長の就任直後、国は庁舎建設補助金の凍結を解除するとともに交付金支給も伝達。08~22年度で総額約201億5千万円の支給が予定され、子ども医療費助成や各種大型事業にも充てられた。

 ことしの年始早々、米軍と国は「後半(7月以降)の移転開始」のスケジュールを公表した。「目に見える形で対応を」―。国が、市と県に移転時期などを説明した1月20日、福田市長は地域振興策や安心安全対策を挙げ、実現を迫った。そのわずか1週間後、国は予算措置を示唆した。

 さらに全国では唯一、山口県に支給されている都道府県向けの再編交付金の増額・延長へ、県・県議会と国の折衝も激しさを増す。「5年間で100億」とされる現在の交付額を「10年間で1桁増やしたい」(県議会関係者)。特例を指す「岩国スペシャル」の言葉まで聞かれ、官邸との水面下でのやりとりも続いた。

「シナリオ通り」

 5月、市と県、国の「地ならし」のギアが上がる。福田市長は沖縄県を訪れ、国が米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先とする名護市辺野古沖の埋め立て状況を視察。同県知事たちの反対がある中、「普天間移設の見通しは立った」との見解を示し、受け入れ判断への前提条件を整えた。

 「ほぼシナリオ通り」。関係者は口をそろえる。この間、国側は安心安全対策や地域振興策に次々と回答。今月20日には岸信夫外務副大臣と宮沢博行防衛政務官が県庁へ赴き、県交付金への「前向き回答」も伝えた。国と県が福田市長の容認表明に向けて、レールを敷き終えた場面だった。

 一方、国の予測では騒音は現状より一部で悪化。市民は墜落や犯罪のリスクも懸念する。それでも県と市は3月、周辺住民の生活環境は06年当時と比べて「全体として悪化しない」との見解を示した。

 結論に向けた「既成事実」は、着々と積み上げられてきた。「国や米軍の都合によるスケジュールありきでは判断しない」―。そう繰り返してきた福田市長はこの日、容認判断を「宿命」との言葉で表した。

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機能強化 危険度高まる

軍事評論家の前田哲男さんの話
 米海兵隊岩国基地は、朝鮮半島に近い最前線基地になる。北朝鮮が相次いで弾道ミサイルを発射し、米国本土も射程内とする中、海兵隊を駐留させる狙いは、11年前のロードマップ発表時と比べ、より重要になっている。沖合移設で新滑走路を造る計画に着目し、米国は結果的に最新式の基地を手に入れた。(誘導路の)旧滑走路の一部も使える状態で残している。今後も基地機能強化があるかは、トランプ米大統領次第だ。ただ61機の移転は基地の大強化。中国山地を含む訓練空域での演習はさらに増え、騒音や墜落の危険度は高まるだろう。

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<米空母艦載機の岩国移転を巡る主な動き>

2005年 10月   日米両政府が艦載機の岩国移転を含む在日米軍再編の中間           報告に合意
  06年 3月    旧岩国市の住民投票で87%が移転に反対
  06年 5月    日米両政府が在日米軍再編に最終合意
  08年 2月    出直し市長選で移転に条件付き容認の福田良彦氏が178           2票差で井原勝介前市長を破り初当選
     10月    岩国市の福田市長が43項目の安心安全対策の要望書を国           に提出
  09年 3月    福田市長が幹線道路網整備など地域振興策への協力を国に           要望
  10年 5月    約1キロ沖合へ移設した米海兵隊岩国基地の新滑走路運用           開始
  12年 12月   国内2カ所目となる軍民共用の岩国錦帯橋空港が開港
  13年 1月    国が艦載機移転時期について、3年程度遅れ17年ごろに           なる見込みと山口県と市に伝達
  15年 1月    国が米軍再編で基地負担が増える都道府県対象の新交付金           として県に18億5200万円を計上
  17年 1月
     5日   在日米海軍司令部が、艦載機移転は「ことし後半に開始さ           れる予定」と発表
    20日   国は市と県に、移転開始時期は「早ければ7月以降」と伝           達。当初計画より2機増の61機に
     5月
    12日   国、県、市が「岩国基地に関する協議会」を開催。市は安           心安全対策のうち「約8割が達成または進展中」とした
    14~16日  福田市長が沖縄県を訪問し、名護市辺野古沿岸部の埋め立           て状況などを視察
    17日   国が市に地域振興策などについて回答。米軍再編交付金の           期間延長と増額について「前向きに検討することを確約す           る」と説明
     6月
    20日   国が県交付金の拡充を「前向きに検討」と回答
    23日   市議会本会議で福田市長が移転容認を表明

(2017年6月24日朝刊掲載)

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