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社説・コラム

社説 艦載機移転の容認表明 住民の不安 拭えぬまま

 米海兵隊岩国基地(岩国市)へ空母艦載機が移転する計画を巡り、岩国市の福田良彦市長が移転を容認する考えを示した。住民説明会や市議会一般質問を経ての表明である。条件としていた米軍再編交付金の拡充について国の前向きな回答が得られた、と判断したのだろう。

 移転計画は日米両政府が2006年に合意した在日米軍再編の柱の一つだ。米海軍厚木基地(神奈川県)からFA18スーパーホーネットなど計61機を、7月から来年5月にかけて段階的に移す方針であり、岩国の所属機は約120機と倍増する。

 核・ミサイルを手放さないまま挑発を続ける北朝鮮を震源に、朝鮮半島情勢はかつてなく緊迫している。それだけに、艦載機移転によって米空軍嘉手納基地(沖縄県)に匹敵する米軍航空基地が誕生することについては憂慮せざるを得ない。

 基地の機能を強化すればするほど、ミサイルなどの目標になる可能性は否めないのではないか。周辺の市や町を含め、住民が巻き添えになるような不測の事態があってはなるまい。

 本来、在日米軍再編については岩国だけが先行することはないはずだ。艦載機移転の受け入れには、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設の見通しが立つという前提がある。

 この普天間の名護市辺野古への移設には沖縄では根強い反対があり、きのうも翁長雄志(おなが・たけし)知事が「工事を強行している現状は容認できない」と断言した。従って福田氏が5月に沖縄を訪問し「客観的に状況を判断すると見通しは立っている」と述べたことには納得がいかない。

 7月以降に配備を始めるという国が示した移転スケジュールに合わせた判断なのか。住民からすれば問題が山積しているにもかかわらず、「日米同盟の深化」を優先させるすさまじい圧力があると想像できよう。

 福田氏はきのう「私には住民の安心や安全を確保し、良好な生活環境を維持するという責務がある。国や米軍と毅然(きぜん)として向き合っていかなければならない」と述べた。容認へかじを切った、自らの政治責任を重く受け止めた発言と捉えたい。

 艦載機移転に伴い、基地と隣り合わせで暮らしてきた住民にとっては、米軍機による騒音被害と事故の問題にさらに直面することになりはしないか。

 岩国基地は滑走路沖合移設で騒音が一定に軽減されたものの、裁判所から日本政府に賠償命令が出るような「違法状態」になお置かれている。基地周辺はもちろん、遠く離れた訓練ルートの飛び方や騒音がどうなるかは見通せない。さらに飛行訓練が隣の広島県や島根県にも懸念材料を与えている。

 「いくら安心・安全対策と言っても、最後は日米地位協定でほごにされる」という声が岩国市の住民説明会で出た。地位協定の見直しは市も求めているものの、抜本的な解決に至っていない。国には米政府への強い対応を求めたいところだ。

 市は見返りとして地域振興策への財政支援を引き続き国に求めていくとみられるが、基地との「共存」が基地への「依存」に傾斜しないよう、スタンスを定めるべきだろう。今後、米軍により住民の安心・安全を脅かす事態が起きた場合は、毅然とした姿勢で臨んでもらいたい。

(2017年6月24日朝刊掲載)

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