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連載・特集

変わる岩国基地 「艦載機」容認 <1> 判断 沖縄訪問「条件クリア」

 「審念熟慮した結果、これを『受け入れる』こととする」。23日、岩国市議会定例会最終日の本会議。傍聴席を埋めた市民たちが見詰める中、福田良彦市長は力を込めた。計画浮上から10年余り。米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機移転問題が事実上、決着をみた瞬間だった。

矢継ぎ早の動き

 艦載機の移転が予定された2017年。年明け早々から矢継ぎ早の動きがあった。1月5日、在日米海軍が移転開始時期を「ことし後半」と発表。国は同月20日、「早ければ7月以降」とさらに詳しい情報を市や山口県に伝達した。

 移転がいよいよ現実味を帯びる中、福田市長は受け入れを判断する上で大きく二つの手順を踏む必要があった。まず前提条件として掲げた市の基本スタンスのクリア。続いて、国に求めた安心安全対策や地域振興策の達成状況、市民と議会の意見などを基に結論を出す―という流れだった。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設見通しが立つことが、前提条件の一つだった。在日米軍再編は「統一的パッケージ」との国の説明を踏まえ、艦載機移転だけを切り離して進めさせない狙いがある。この条件はしかし、移転容認を導く上では最後までネックになっていた。

 6月の市議会で判断を表明する意向を示していた福田市長は5月14日、沖縄へ飛んだ。15、16の両日、沖縄防衛局から基地の現状や課題を聞き、政府が普天間飛行場の移設先とする名護市辺野古沖の埋め立て状況を視察。名護、宜野湾両市長とも会談した。日程上、計3時間足らずの視察。その翌日、「見通しは立っていると言える」との見解を表明し、全ての前提条件をクリアさせた。

 住宅防音工事の対象区域の拡大、岩国南バイパスの南伸、小中学校の給食費無料化…。福田市長は従来の安心安全対策や地域振興策に加え、新事業への支援も国に要求。予算措置にめどを立て、米軍再編交付金の拡充も「確約」を得た。住民説明会や市議会で「一定の成果があった」と評価してみせた。

市長見解 批判も

 ただ普天間飛行場の辺野古への移設には、沖縄での反対論が根強い。福田市長の容認表明と同じ日、沖縄県知事は「民意を顧みず工事を強行しており、容認できない」と表明。7月にも国を相手に工事差し止め訴訟を起こす準備を進めている中で、普天間移設を巡る市長見解には批判の声も聞かれる。

 移転に伴う騒音問題などについて、福田市長は容認表明後にこう述べた。「住民の不安が払拭(ふっしょく)されたとは言い切れない」。疑問や懸念が十分に解消されないまま、極東最大級の米軍基地化の扉は開かれた。

    ◇

 空母艦載機の受け入れを認めた岩国市。賛否を巡って民意を二分するなど、地域を翻弄(ほんろう)し続けた移転問題の経緯を振り返り、残された課題を探る。(松本恭治)

【米空母艦載機の岩国移転を巡る主な動き】

2006年
   5月 日米両政府が、艦載機の岩国移転を含む在日米軍再編に最終合意
08年 2月 移転容認派が推す福田良彦氏が岩国市長選に初当選
10年 5月 約1キロ沖合へ移設した米海兵隊岩国基地の新滑走路が運用開始
16年 8月 国が岩国基地で艦載機の試験飛行を実施
17年 1月
   5日 在日米海軍司令部が艦載機移転は「ことし後半の開始予定」と発表
   20日 国が市と山口県に移転開始時期を「早ければ7月以降」と伝達
    5月
  12日 国、県、市が「岩国基地に関する協議会」を開催。市は安心安全対策       のうち「約8割が達成または進展中」と評価
14~16日 福田市長が沖縄県を訪問し、名護市辺野古沿岸部の埋め立て状況な       どを視察
   17日 国が市に地域振興策などで回答。米軍再編交付金の期間延長と増額       について「前向きに検討することを確約する」と説明▽福田市長が       「普天間移設の見通しは立っている」との見解表明
21・23日 市が移転計画を巡る住民説明会を市内4カ所で開催
    31日 市議会全員協議会で移転計画を巡り議論
  6月23日 福田市長が移転容認を表明


米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編で、米海軍厚木基地(神奈川県)から艦載機61機(当初は59機)が米海兵隊岩国基地に移転する計画。国が1月に公表したスケジュールによると、早ければ7月にも配備が始まり、来年5月ごろまでに完了する予定。移転に伴い岩国基地の配備機数は倍増の約120機となり、軍人や軍属などは1万人を超える見込み。

(2017年6月27日朝刊掲載)

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