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核なき世界への鍵 条約 <1> 禁止の網 保有国の安保 違法化

 賛成122、棄権1、反対1。7日、米ニューヨークの国連本部の会議場。大型スクリーンに、核兵器禁止条約の採択を告げる投票結果が映るやいなや、非政府組織(NGO)の傍聴席から大きな歓声が上がった。見守った広島の被爆者たちは涙ぐみ、握手を交わした。賛成した国々の政府代表たちも立ち上がり、拍手。ホワイト議長(コスタリカ)は議場を見渡すと、両手を胸にやって喜びを表した。

 「歴史的な瞬間だ。核兵器のない世界へ、核保有国加盟の願いを込めて作った」。ホワイト議長は採択後の記者会見で目を赤くして語った。一部意見の相違がありながら、「最良の妥協案」としてまとめた条約。それでも交渉に不参加の核兵器保有国や、「核の傘」の下にある国の核抑止政策とは両立しない強い内容だ。「条約は、国際社会に21世紀の新しい安全保障パラダイムを発展させる」

 段階的な核軍縮をうたう米ロなど保有国は、安全保障を理由に核抑止を正当化する。その考えがある限り、廃絶はかなわない―。6月15日に第2回会議が始まると、大半の参加国は、核に頼る安全保障政策を違法化する強い禁止を志向し、議論を進めた。

 条約は5月の草案段階から、被爆者の苦しみなど被害の非人道性を挙げ、いかなる核使用も既存の国際法に反すると前文に明記。1条で使用を禁じた。「国家存亡がかかる自衛の極限状況」では違法か合法か判断できないとした国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見(1996年)の抜け道をふさぐ「条約の柱」に、ほぼ異論はなかった。

 さらに、核抑止政策をより強く否定するため、使用するという「威嚇」を禁止事項に加えるよう求める意見がインドネシアなどから続出した。定義しにくいとして消極的な声があったが、「威嚇は核による安全保障の根幹だ」(ホワイト議長)と、成案に入った。

 核開発への「融資」や領空・領海の「通過」は明記されなかったが、「支援」禁止の解釈で対応する方向だ。

 広げた禁止の網は、国家だけでなく、市民による具体的な活動を強める好材料になりうる。

 「すごく幸せ。禁止は活動の後押しになる」。オランダの反核NGO「PAX」の核軍縮プログラムマネジャー、スージー・スナイダーさんは言う。核兵器製造に関わる会社と取引がある26カ国の銀行や年金基金のリストを公開し、止めるよう求める運動を展開。ただ、非人道兵器の関連では融資しない事業指針を設ける金融機関ですら「核兵器は違法ではないから」とはね返されることが少なくなかったという。

 スナイダーさんたちは条約発効後、「支援」禁止をてこに、各締約国で核兵器製造などに関わる融資を禁じる国内法を整えるよう働き掛け、規範として浸透させる道筋を描く。「採択のパーティーは今日まで。核兵器廃絶へ、市民社会は明日からまたハードワークよ」。歓喜に沸いた傍聴席で、大きな達成感と新たな使命感に浸った。(水川恭輔)

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 核兵器禁止条約が7日、国連本部での交渉会議で非保有国の賛成多数で採択された。核兵器のない世界に向けたその意義と、今後の課題をみる。

(2017年7月9日朝刊掲載)

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