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社説・コラム

社説 核兵器禁止条約採択 これが被爆者の願いだ

 核兵器禁止条約が122カ国の賛同を得て国連で採択された。核兵器を非合法化する初の国際法であり、使用はもちろん、開発や製造、保有など関連することを全面的に認めない。採択へ動いてきた関係各国に被爆地から敬意を表したい。

 交渉議長国のコスタリカが示した草案段階から、前文に「ヒバクシャ」が受けてきた苦しみを心に刻む、という文言が加えられたことも特筆に値するだろう。国際社会を動かしてきたのは、紛れもなく彼らの声である。その証しではないか。

 そのヒバクシャを「核兵器使用の被害者」と説明し、「核実験に影響された人々」の苦しみにも言及した。米国の広島・長崎への核攻撃に始まった核の時代は、住民から土地を奪い、命と健康を脅かす核実験によって少なからぬ国々に爪痕を残してきたのだからうなずける。

 底流にあるのは、国際社会で近年注目されてきた「核兵器の非人道性」という概念である。核軍縮は倫理的責務であり、「核兵器なき世界」は急ぎ実現させなければならない―。その決意を示したと言えよう。

 条約には「平和、軍縮教育を普及させ、現代および将来の世代に核兵器の危険性を再認識させる」という一項も入った。核兵器使用をにおわせる「威嚇」も禁止の対象にした点は、核抑止論を真正面から問うていると言えよう。当初案では除外されていたが、最終案には明記されたことを高く評価したい。

 かつて広島のジャーナリスト金井利博が「反対目標は物としての核兵器だけではなく、人の組織としての核権力である」と記しているように、核兵器は物質的な破壊力だけが問題ではない。民主主義とは相いれない、核兵器で裏付けられた強大なパワーがこの世界を支配することに、何より問題があろう。

 一方で核保有国と同盟国は条約交渉に背を向けてきた。唯一の被爆国である日本も、条約交渉に参加しなかった。「核保有国と非保有国の溝を深める」として拒んできたものの、「核の傘」を差し掛ける米国への配慮なのだろう。歴史的な国際舞台でありながら、その後ろ向きな外交姿勢に深く失望した。

 米国のオバマ前大統領の広島での演説をもう忘れたのだろうか。あの演説を「同盟強化」の象徴にすり替えてはならない。

 そもそも、この条約の採択によって、核兵器は違法な非人道兵器として「絶対悪」の烙印(らくいん)が押されることになる。核保有国や同盟国の国民にとっても、核兵器はネガティブなものに変容していく可能性は十分だ。

 偶発的な核事故や誤った判断による核発射、核テロの脅威などが実在する現状を考えると、それは一層現実味を帯びるだろう。直ちに効果が出なくても、長期的な潜在力をこの条約は内包していると言っていい。

 日本被団協の藤森俊希・事務局次長は国連本部での採択に立ち会い、「(今後の日本政府の動きについて)核廃絶を求める国民の思いが強まれば変わる。批准してもらえるよう、努力を続けたい」と語っていた。

 核保有国を説得して「危険の芽」を摘むように政策転換させるのが、被爆国の責務であり、被爆国の国民はそれを働き掛けるべきだ。国際社会に規範を示す日本であってほしい。

(2017年7月9日朝刊掲載)

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