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核なき世界への鍵 条約 <3> 保有国へのドア 加盟 間口拡大でも反発

 「広島、長崎の被爆者の思いに応えるのは私たちの責任。条約への反発は被爆者の頰をひっぱたくようなものだ」。7日、米ニューヨークの国連本部。核兵器禁止条約の採択後に記者会見した南アフリカの軍縮担当、ディセコ大使は核保有国をけん制した。

 保有国が条約に加盟できるような道筋を十分議論し環境を整えたという自負がある。同国は1991年に核兵器を放棄した経験を持つ。先月15日からの第2回交渉会議では、保有国の加盟方法を提案。検証できる形で廃棄を期限内にするならば、核を持ったままでも加盟できる内容だった。

 保有国を早く条約に引き込もうと、多くの国が提案を支持。やはり大量破壊兵器を規制する化学兵器禁止条約(97年発効)は廃棄期限を「原則10年」としたが、核兵器禁止条約は締約国と各保有国との交渉で定めるとし、幅のある仕組みにした。保有国が言う段階的な核軍縮の時間猶予に一定に歩み寄った形だ。

 「時は来た」。ディセコ大使が保有国に加盟と廃絶を強く迫る傍らで、オーストリアの担当者、ハイノツィ大使もうなずいた。前文での「被爆者」言及を働き掛けた副議長国。もう一点、こだわったのが事故や誤使用のリスクだ。

 第2回交渉会議で求め、前文に入った。さらに、南アフリカ提案にも関わり、締約した保有国に核兵器を持ったままの加盟を認めると同時に、使用を念頭にした配備から速やかに外す義務を含めた。

 米ロは、各約千発が即時発射できる態勢にある。核に頼る各国の世論に条約加盟を訴え掛けるべく、偶発的な核戦争・事故のリスクをそぐ利点を押し出した。「禁止条約で、核兵器のない世界をつくる方が人類は安全だ」。ハイノツィ大使は断言する。

 ただ、採択の7日も、議場の米国政府席は空席だった。条約が採択されると、米国は英仏とともに声明文を発し、早速「署名する意思はない」と表明。「欧州と北アジアの平和を70年保ってきた核抑止力の政策と相いれない」と強調した。

 米国の核戦略に頼る北大西洋条約機構(NATO)から唯一、交渉に参加したオランダも態度を硬化。保有国の加盟条項の柔軟性を一定に評価しつつも、NATOの政策との両立を求めて譲らず、「全会一致」による採択を阻止して投票に持ち込み、反対した。

 核を持ち、他国を脅して武力行使を自制させる方が世界にとって安全―。この保有国の主張は、条約に賛成した122カ国が順次批准して発効すれば、正当性が一層問われる。条約の核軍縮への即効性を疑う専門家は、保有国を覆う「安全神話」の打破が長期的な廃絶につながり得るとみる。

 「条約自体は核兵器をなくしていく力を持たないが、『より安全な世界』のビジョンとなる」。ペリー元米国防長官は7日、声明で禁止条約を支持した。偶発的な核戦争の危険性などを訴え、オバマ前米大統領の「核兵器なき世界」構想に影響を与えた「4賢人」の1人だ。

 核軍縮・不拡散に詳しいのプラウシェア財団(米国)のシリンシオーネ理事長も核兵器の事故や誤使用のリスクの高さを指摘。「核兵器を安全保障にプラスと考えるのは間違い。汚名を着せるという意味で条約は歴史的ステップだ」との立場だ。(水川恭輔、金崎由美)

(2017年7月11日朝刊掲載)

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