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核なき世界への鍵 条約 <4> 不参加の「被爆国」 「署名せず」揺らぐ信頼

 被爆証言の集会の後援リストから「日本政府国連代表部」の名が消えていた。NGO(非政府組織)のピースボート(東京)が6月19日、核兵器禁止条約の交渉会議開催中の米ニューヨーク・国連本部で開いた関連行事。外務省の担当者は「条約交渉に参加していないのに、この集会を後援すれば対外的に誤解を招きかねず、省内で協議して見送った。難しい判断だった」と説明する。

 昨年10月の国連総会第1委員会(軍縮)に合わせた同様の集会では、同代表部も後援に名を連ねていた。しかし日本政府は、段階的な核軍縮を主張する核保有国と歩調を合わせ、同委員会で採決された交渉開始決議案で反対。ことし3月に交渉が始まると、実質交渉の参加を見送った。

 「世界に恥ずかしい」。被爆者の田中稔子さん(78)=広島市東区=は集会で証言後、自国政府への思いをこう表現した。米核実験の「ヒバク国」で、集会を後援したマーシャル諸島政府のカブア国連大使も不満げだった。「日本政府に『何で(交渉に)来ないの?』と直接聞きたいわ」

 条約交渉の議場では、傍聴した各国市民が日本の空席に厳しい視線を注いだ。「期待したのに悲しい」(参加を願う折り鶴を置いたノルウェーの市民)、「日本が非人道性を軽んじているようで哀れだ」(カザフスタンの市民)…。

 被爆国への信頼が揺らぐ中、追い打ちをかけるように、7日の条約採択直後に議場外で記者団の取材に応じた別所浩郎国連大使は「署名しない」と言明。「核なき世界を目指すには保有国と非保有国が協力し合う必要がある」とした。

 ただ、ピースボートの川崎哲共同代表は「協力をいうのなら参加して保有国を引き入れればいい」と反論する。禁止条約は核兵器の使用や使用するという威嚇に加え、それらを支援、奨励、勧誘する行為を禁じており、米国の核抑止力に頼る日本の政策は国際法違反と見なされ得る。「法的に加盟できるかどうかという議論を避けようとしているのではないか」とみる。

 11日、条約採択後初めて記者団の取材に答えた岸田文雄外相は、核抑止政策が条約違反と見なされ得る可能性を問われ「交渉に参加していないので中身についての言及は控える」。核保有国に核軍縮を義務付ける核拡散防止条約(NPT)など既存の枠組みを重視する考えを重ねて示した。

 政府は2月の日米首脳会談でトランプ政権から「核の傘」確約を得た。専門家は、禁止条約が制定された以上、賛同した非保有国と核軍縮で「協力」したいなら、日本の政策変更が問われるとの見方を強める。

 「核リスクの低い世界」を目指し、日本の主導で7年前に設立された軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)はどうなるのか。参加12カ国には、条約を推進するフィリピンやメキシコが含まれ、NPO法人ピースデポ(横浜市)の梅林宏道特別顧問は「日本は安全保障政策の転換に努力を」と政府に求める。

 大阪女学院大の黒沢満教授(軍縮国際法)は反撃以外に核を使わない「先制不使用」と警戒即発射態勢の解除への賛成がポイントとみる。「オバマ前米政権はとてもやりたがったが、日本はどちらも反対した。この二つを受け入れれば、核への依存の軽減をはっきり示せ、条約加盟へ一歩進める」と提案する。(水川恭輔、田中美千子、金崎由美)

(2017年7月13日朝刊掲載)

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