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核なき世界への鍵 条約 <5> 廃絶の壁 世論のうねり 喚起を

 核兵器禁止条約の採択へ詰めの協議が進んでいた5日、米ニューヨークの国連本部。その一室で、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を受けた国連安全保障理事会の緊急会合が開かれ、条約交渉に参加していない米ロなどの保有国や日本の政府代表が顔をそろえた。「必要ならば、軍隊を使う」。米国のヘイリー国連大使は北朝鮮への警告を発した。

 米国は、北朝鮮の核・ミサイル問題などを現実の課題に挙げ、条約が解決策にならないとして交渉をボイコット。日韓に差し出す「核の傘」を含め、安全保障上の核兵器の役割を減らす姿勢をみじんも見せない。2日後の7日、禁止条約採択に沸いた議場の熱気とは対照的だ。

 「廃絶へ重要な、米ロの核軍縮が進まない」。その議場で、条約採択を歓迎する平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の声明を配った米国人のランディ・ライデルさんは嘆く。首長会議の相談役で、国連軍縮部に務めた経歴を持つ。

 各約7千発の核を持つ二つの超大国。トランプ米大統領が核戦力の増強に意欲を示したとはいえ、オバマ前政権で悪化した米ロ関係が改善すれば軍縮が進むのではないかと期待した。だが、米大統領選へのロシアの介入を巡る疑惑で国内政治が混迷。終息しない限り軍縮の進展はないとみる。

 廃絶への壁は高まるが、ライデルさんは「生活に関わる視点で関心を高め、地域連携で廃絶を迫りたい」と話す。平和首長会議の米国内の活動を引っ張るデモイン市など20市は6月の全米市長会議総会に、米国が今後、核兵器近代化などに費やす約1兆ドルとされる予算を教育や環境保護に使うべきだとの決議を提起、採択した。禁止条約支持も盛り込んだ。

 保有国と非保有国の溝を埋める力となるのは国際社会の世論。その喚起へ禁止条約をどう活用するか。

 核兵器の非人道性を訴え、法的禁止の流れを生んだ赤十字国際委員会(ICRC)から条約交渉会議に参加したルー・マレスカ法律顧問は、核使用や核実験による世界各地の「ヒバクシャ」支援の条項に期待する。締約国は医療援助などをすると定め、国連や非政府組織(NGO)の枠組みを生かした人道的な国際協力の大切さを押し出す。

 マレスカさんはICRCの活動と家族旅行で広島を2度訪問。非人道的な被害と復興の歩みに触れ、核兵器廃絶へ市民を駆り立てる力を感じた。「各国はヒバクシャの援助を通じて、今も続く被害者の苦しみに向き合ってほしい。条約加盟は人道的な責任だという国際社会の機運を高め得る」

 核兵器廃絶を―。条約前文は、国連総会が広島、長崎の惨禍の翌1946年に採択した第1号決議に言及している。保有国の再三の切り崩しにもかかわらず、国連加盟国の6割超の122カ国が賛成を投じたのは、それこそ正しい道だと確信している証しだ。

 「広島・長崎の被爆者の多大な協力で、70年以上かかってやっとできた国際法だ」(ホワイト議長)。9月20日の条約署名開始を前に迎える被爆72年の原爆の日、各国の政府代表が被爆地を踏む。対立を越えて、廃絶の扉を開け得る「鍵」を共に握るのか。あまたの犠牲者の声なき声を背に、ヒロシマの訴えが問われている。(水川恭輔)=「条約」編おわり

(2017年7月14日朝刊掲載)

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