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社説・コラム

『記者縦横』 交渉不参加に募る不信

■報道部 水川恭輔

 「日本の被爆者や市民が飛行機で十数時間かけて来とるのに、歩いて来られる政府が不参加とは…」。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之副理事長(75)は嘆いた。先月、核兵器禁止条約交渉が開かれていた米ニューヨークの国連本部。北に面する、日本政府国連代表部が入るビルを記者と眺めた。

 その中で、政府職員は国連のインターネット中継で議論を見ていたようだ。議論が済めば、他国の出席者に情報交換を持ちかけたこともあったという。「それなら参加すればいい」。非政府組織(NGO)メンバーの冷ややかな声にうなずかずにいられなかった。

 対照的だったのが北大西洋条約機構(NATO)から唯一参加したオランダ。日本と同様に米国の核に依存していながら交渉に加わった。採択には反対したが、被爆者のサーロー節子さん(85)=カナダ・トロント市=は「まず参加し理解しようとした姿は素晴らしかった」とたたえる。「それに比べ、日本政府は非常に不信感を与えた。橋渡しなんて果たせますか」

 政府は「核兵器なき世界へ保有国と非保有国の信頼関係を再構築する」と声高に言う。ただ、被爆者や各国市民からの信頼を損なった国がそれを担えるのか。

 122カ国の賛成で制定された禁止条約は前文で被爆者に触れ、いかなる核使用・威嚇も禁じた。被爆国に対して膨らむ不信は、核に依存する安全保障を抜け出る先頭に立ってほしいという期待の裏返しとも言える。被爆72年の夏、ヒロシマから行動を問いたい。

(2017年7月21日朝刊掲載)

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