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連載・特集

全国被爆者団体アンケート 解散か継承か 活動岐路

 活動を終えるか、次世代に託すか―。全国の被爆者団体を対象に中国新聞社が実施したアンケート(108団体が回答)では、老いと担い手不足により将来の展望を描けない団体の苦悩ぶりが浮かび上がった。半面、2世の組織化が各地で進み、継承の道筋を付けた団体もある。被爆72年の夏、制定された核兵器禁止条約は前文で、廃絶に向けた被爆者の努力に触れた。その先頭に立ってきた団体は岐路にいる。(長久豪佑)

安芸高田市向原「被害者の会」 2020年に幕

後継団体の組織化断念 担い手なく 市に営み託す

広島県世羅 3団体が合併検討

東広島市豊栄の協議会 1世・2世の会統合

 安芸高田市向原町の被爆者166人(3月末現在)でつくる「町原爆被害者の会」は3年後、被爆75年となる2020年の原爆の日を最後に解散する。ことし3月の役員会で決めた。

 「続けようにも担い手がいない。『草木も生えない』と言われた75年まで続けるのが私のけじめ」。広島二中(現観音高)1年で被爆し、6年前から会長を務める玉川祐光さん(84)は漏らす。

 数年前、2世団体を設立しようと調査した際、子ども世代の大半が地元を離れていることが判明。組織化を諦めた。年を追うごとに会員は亡くなったり福祉施設に移ったりし、ここ5年で約100人減った。4年前に年1回の親睦旅行を中止。今春、会費の徴収もやめた。

 広島市中心部から約30キロ離れた向原町には、被爆直後からけが人が運ばれた。同会は、身元不明のまま火葬された犠牲者を弔う慰霊碑を維持し、追悼式を催してきた。解散後、その営みが途切れぬよう、継承を市に要望した。「会は役割を終えるが、不戦を誓い続けた精神は次世代に引き継ぎたい」と玉川さん。慰霊碑を見つめ、願う。

 あと何年活動できますか―。アンケートでは今後の展望を自由に書いてもらった。2世組織が「ない」とする63団体の回答からは、組織の維持に苦心する姿が浮かぶ。「2、3年」(茨城県)「4年が限界」(大分県)「脱会希望者が年々増え、予測できない」(岩国市原爆被害者の会)。「10年以上」と書いた団体はごくわずかだ。

 「力尽きた。ことし8月6日をめどに解散する」(岡山県原爆被爆者会笠岡支部)「本年度中に会を閉じる」(安来市原爆被爆者協議会)。向原町のように具体的な解散時期への言及もあった。回答した団体の4分の1が「会員の被爆者がいなくなれば解散・消滅させる」と答えた。

 一方、活動の継承を模索する動きもある。広島県世羅町内では甲山、世羅、世羅西の旧町単位の3団体が合併を検討中だ。岩手、高知各県の団体は2・3世組織の設立を県主導で進めるよう働き掛けている。

 2世組織を持つ団体からは前向きな回答が返ってきた。今月につくった富山県は「活動は長く続けられる」。豊栄町原爆被害者協議会(東広島市)は、これまで別々に活動していた1世、2世の会が5月に統合。2世主導の会として再出発しており「2世の会員を増やしながら長く活動を継続したい」とした。

今後の力点 「会員の健康・親睦」最多

 「今後、どんな活動に力を入れるか」との質問(複数回答可)では、被爆者の老いを反映し、「会員の健康と親睦の維持」が71団体で最多だった。次いで「被爆者による学校や地域での被爆体験の証言」を68団体が挙げ、地道な活動を引き続き重ねて被爆の記憶と平和への思いを次代に託そうとの思いがにじむ。

 「被爆2世の健診など国による援護策の充実を求める運動」59団体、「慰霊碑の維持や慰霊祭の実施」52団体と続いた。「その他」として「被爆証言DVDの学校などへの配布」(石川県)や、「被爆体験談を石碑に刻む取り組み」(岩手県)などの意見もあった。

 一方で、「核兵器廃絶に向けた署名・座り込みなどの運動」は50団体で半数に届かなかった。核兵器を禁止し、廃絶する条約の締結を全ての国に求める「ヒバクシャ国際署名」を日本被団協が提唱する中、今後の推進態勢が課題になる。

核兵器禁止条約への意見 日本の加盟 大半が望む

 国連で7日に制定された核兵器禁止条約を、93・5%の101団体が「意味がある」と評価した。交渉に参加しなかった日本政府に条約加盟を求める意見も103団体(95・4%)に上り、被爆者組織の思いと政府の姿勢との溝の深さが浮き彫りになった。

 「とても意味がある」が77団体、「まあまあ意味がある」が24団体。理由(複数回答可)として、「核兵器の開発や使用を禁止しており廃絶につながる」を最多の85団体が選択し、条約の内容を前向きに捉えた。「前文に『被爆者』という言葉が入り、その苦難と努力に触れた」が62団体、「核兵器使用や核実験の被害者への医療提供など、援助規定がある」が31団体で続いた。

 条約制定を「あまり意味がない」としたのは3団体で、うち2団体が「核保有国や日本など『核の傘』の下にある国は条約に加盟しないだろうから廃絶につながらない」を理由に選んだ。「全く意味がない」はゼロだった。

 「日本は加盟すべきだ」と答えた団体には自由記述で理由を聞いた。「唯一の被爆国として、核兵器を有することの愚かさを伝える必要がある」(鳥取県)「条約は核保有国の加盟で初めて効力を持つ。そのためには日本の加盟が必要不可欠だ」(広島市原爆被害者の会)。日本政府の姿勢を批判し、「橋渡し役」としての役割を期待する意見が並んだ。

 「日本が加盟すべきだとは思わない」はゼロ。「どちらとも言えない」は5団体あり、「日本の加盟が削減につながるだろうか。核保有国による議論以外に期待できない」(山梨県)との受け止めがあった。

(2017年7月23日朝刊掲載)

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