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社説・コラム

社説 トランプ政権半年 超大国の責務 自覚せよ

 米国のトランプ政権が発足して半年になる。政策論争が低調で人格に対する中傷合戦の様相を呈した選挙戦を終えれば、常識的な言動に落ち着くと考えていた向きも国内外にあっただろう。しかし、今のところは「壊し屋」の印象を拭えない。

 環太平洋連携協定(TPP)や、地球温暖化防止に関する「パリ協定」からの離脱といったネガティブな公約しか実行していないからだろう。それと裏腹に、オバマケア(オバマ前政権が導入した医療保険制度)を廃して新制度に置き換えるという公約は頓挫したままだ。

 つまり財政再建につながり、税制改革や大規模なインフラ投資につながる前向きな改革にはめどが立っていないのである。オバマ前政権のレガシー(遺産)をつぶしていくことに執心しているだけではないか。

 にもかかわらず、半年間の支持率は低空飛行ではあっても急落せず、共和党支持層では80%台を維持しているという。

 トランプ氏は既得権層への批判をてこにして「ラストベルト(さびたベルト)」と呼ばれる衰退した工業地帯の保守的な白人労働者層の支持を獲得した。それは既得権層から無視され、忘れ去られてきた人たちである。彼らがトランプ氏に票を投じることになった米国社会の「分断」の現実を、あらためて直視しなければなるまい。

 国際社会はトランプ政権の政策を注視し、自由や民主主義、法の支配といった価値観に逆行する流れには待ったをかけることが、現実的な道だろう。

 日本からすれば、朝鮮半島情勢にどう向き合うか、非核化への流れをどうつくるのか、大いに気になる。ところが、4月に原子力空母カール・ビンソンを近海に派遣しながら、その後の北朝鮮の核・ミサイルを巡る動きに対して戦略が見えない。

 むろん、米国が北朝鮮に先制攻撃を加えるような事態に発展してはならない。それは米国の同盟国である韓国や日本への反撃を招く、最悪のシナリオである。核放棄を前提に、外交による解決を米国には主導してもらいたい。日米韓各国の間で十分な擦り合わせができていないことには、危機感を覚える。

 保護主義的な通商政策に拍車が掛かってきたことも憂慮すべきだ。21日に出された大統領令では「2000年以降に米国で6万以上の工場が閉鎖され、約500万人の雇用が失われたことが米国の軍需産業を脅かしている」と指摘し、鉱工業製品の輸入規制を広げようとしている。主な貿易相手国との摩擦が強まるのは避けられまい。

 「他国は米国の犠牲の下で豊かになった」と発言しているように、トランプ氏は国民に、ことさら被害者意識を強調しているのも由々しきことだ。ランプ氏は国民に、ことさら被害者意識を強調しているのも由々しきことだ。

 一時期、政権中枢から遠ざけられたバノン首席戦略官が復権しつつあることも見過ごせない。歴代政権の現実主義とは異質な保守思想の持ち主だという。メディアを敵視するトランプ氏の姿勢は変わるまい。ランプ氏は国民に、ことさら被害者意識を強調しているのも由々しきことだ。

 ベトナム戦争のような過ちを肯定することはできないが、米国は戦後の国際秩序を大筋ではリードする中で、国力を高めてきたのではなかっただろうか。文明の危機ともいえる時代にあって、超大国の責務をあらためて自覚すべきである。ランプ氏は国民に、ことさら被害者意識を強調しているのも由々しきことだ。

(2017年7月23日朝刊掲載)

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