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社説・コラム

社説 岐路の被爆者団体 裾野広げ活動支えよう

 先行きに強い不安を抱えている被爆者団体が4分の1に達した。放ってはおけないだろう。被爆の記憶や核兵器廃絶への思いを受け継いでいくため、組織をどう支えるか腐心したい。

 各都道府県と中国5県の各地域の被爆者団体を対象にした中国新聞社のアンケートで、展望を描けない団体が苦悩している現状が浮かんだ。回答した108団体の25%に当たる27団体が「会員の被爆者がいなくなれば解散・消滅させる」とした。

 米国による原爆投下から間もなく72年になる。被爆者の平均年齢は3月末で81歳を超えた。進む高齢化が、団体の先行きにも影を落としている。

 広島県を含め中国地方でも、解散する被爆者団体は少なくない。2015年以降、庄原市西城町、尾道市因島、府中市、浜田市など、10を超す団体が活動を終えた。

 とりわけ人口の少ない山間部や島が深刻だ。活動が続いている間に対応を考えなければならない。近隣の団体との合併や、空襲など原爆以外の戦争被害者との連携はできないか。担い手不足の解消につながる方法について知恵を絞る必要がある。

 一方、アンケートからは展望を切り開こうとする動きもうかがえた。「2世や遺族を加えて存続させる」という団体が59あり、半数を超えた。実際、都道府県レベルの団体では、2世の組織を設けるケースが増えている。今後の活動への危機感の表れでもあるのだろう。

 2世や3世、遺族に限らず、裾野を広げることが不可欠だ。例えば、被爆体験伝承者や大学生、ピースボランティアたちに協力してもらうことで、組織活性化につなげられるはずだ。

 中には、被爆者でないことにためらいや抵抗を感じる人がいるかもしれない。日本被団協の初代事務局長を務めた故・藤居平一さんを思い出したい。家族を原爆で奪われたが、被爆者ではなかった。それでも、被爆者運動の土台をつくった。核兵器廃絶の願いに共鳴できるのであれば、活動を支える上で遠慮は要るまい。

 国際的に見ると今、核兵器のない世界実現への流れが強まっている。今月、核兵器禁止条約が採択された。前文には被爆者の「耐えがたい苦しみと被害」に留意すると記されている。

 核兵器がいかに非人道的か、被爆者が長年訴え続けてきたことが、国際的に評価された証しである。そうした活動を終わらせるわけにはいかない。

 条約はできたが、核保有国や「核の傘」に頼る国々を説得することが今後も必要だ。気になるのは日本政府の姿勢である。交渉には背を向け、採択後も署名しない方針を示した。被爆者の願いを邪魔していることに気付いていないのだろうか。

 地球上から核兵器を全てなくすまで、国内外で被爆体験を証言し続けてもらうことが欠かせない。役割は終わっていない。被爆者団体が活動を続けられるよう、私たちも粘り強く努力しなければならない。

 被爆地広島と長崎の市長が会長を務める平和首長会議や非核宣言自治体協議会として後押しができないか。都道府県庁の被爆者援護の担当課などに、各県組織の事務局役になってもらえないか。広島市や県も含めて、支える仕組みを考えたい。

(2017年7月24日朝刊掲載)

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