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在韓被爆者と弾き語り交流 「笑顔を」同胞訪問7年 被爆2世の音楽療法士 金さん

 広島市中区の音楽療法士で、被爆2世の在日コリアン金秀光(キム・スガン)さん(69)が、在韓被爆者との交流を続けている。韓国の慶尚南道にある「陜川(ハプチョン)原爆被害者福祉会館」を毎年2回訪れ、アコーディオンの弾き語りで老いた被爆者の心を和ませてきた。亡き父、金秀鉉(キム・スヒョン)さんはかつて、広島で同胞の被爆者援護に力を尽くした。その遺志を継ぐ活動でもある。(岩崎誠)

 同会館は「韓国のヒロシマ」と呼ばれる陜川にある被爆者の養護施設で大韓赤十字社が運営し、約100人が暮らす。金さんは研修のため広島に来た施設関係者と知り合い、2010年から訪問を始めた。春と秋の1日ずつだが、韓国で流行する歌謡曲や民謡などを歌詞やメロディーを入念に練習して臨み、一緒に歌い踊って楽しんでもらう。

 時には昔の日本の歌を望まれたり、被爆当時に住んでいた広島の地名で盛り上がったりすることもある。高齢でフロアに集まれない人も居室を訪ね、話し掛けて歌う。次第に施設に溶け込み、次の訪問を楽しみにしてくれているという。

 アコーディオン奏者として演奏活動を続けてきた金さん。音楽療法士の資格を取り、病院などで演奏を心身の症状回復に役立てる仕事をするが、在韓被爆者との交流はそれが目的ではない。「原爆で苦労した人たちの笑顔を引き出し、少しでもいい時間を過ごしてほしい」というのが願いだ。訪問を重ねるたび物故者がいて、施設の定員にも空きが出ている現状がある。

 広島で被爆し、17年前に亡くなった金さんの父は韓国の古里では日本に渡った後、原爆で死んだと長年思われていたという。晩年、望郷の思いを強めた父への思いも活動を支える。「体が続く限り訪問したい」と金さんは意気込む。8月には同会館隣接地に原爆被害の資料館が完成予定。秋の定期訪問に先立ち、その折も訪ねるつもりだ。

(2017年7月24日朝刊掲載)

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