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上関埋め立て免許延長許可1年 意見書・調査 推進の動き 漁業補償問題が再燃

 中国電力が上関町で進める上関原発建設計画を巡り、村岡嗣政知事が予定地の海を埋め立てる免許延長を許可して3日で1年となった。この間、県議会は原子力政策の推進を国に求める意見書案を可決。中電も予定地でボーリング調査を始めるなど新たな局面を迎えた。一方、地元では推進反対両派の間に再びさざ波が立っている。(佐藤正明、堀晋也)

 村岡知事は3日、上関原発について、国のエネルギー政策における重要電源開発地点の指定が「引き続き有効で、土地需要があるという法的な観点で許可した」と改めて強調した。今年は国のエネルギー基本計画の見直し時期で、原発新増設が明記されれば、「上関に影響する。状況を注視したい」とした。

 中電は6月30日、予定地で原発の新規制基準を考慮したボーリング調査に着手した。これについて、「許可した埋め立て免許とは別問題」と村岡知事。原子力規制委員会による上関原発の安全審査再開の見通しも立っていないが、中電上関原発準備事務所は、将来的な審査再開を見据えた備えと説明する。

「前進している」

 推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(59)は「免許許可もボーリング調査も、建設への環境が整っていると捉えて間違いない。前進している」。2011年の福島第1原発事故後の事実上の凍結が動きだしたとの見方だ。

 昨年10月に県議会は、上関原発建設に絡む原子力政策の推進を国に求める意見書案を賛成多数で可決した。主導した最大会派自民党の幹部は「知事は大きな決断をした。国に上関原発の方向性を定めるよう求める必要がある」とした。

 ことしの年始早々、中電の清水希茂社長は県庁と上関町を訪問。報道陣に対し「古い原子力が廃止される中、日本で唯一の新規地点の上関は非常に重要」と推進姿勢を強調した。4月の決算会見でも「早く着工という形になれば」と述べた。

 4月、村岡知事が新造旅客船就航の祝いで、反対派住民の多い予定地対岸約4キロの上関町祝島を初訪問する予定だったが、荒天で中止に。6月には、祝島の漁業者が強固な反対の象徴として受け取りを拒否してきた漁業補償金の問題が再燃。配分方法を採決する集会開催が提案され、県漁協本店(下関市)と島民との間で対立が続く。

「意味なかった」

 原発建設に反対する上関の自然を守る会の高島美登里代表(65)は「国策が不透明で、知事による埋め立て免許の延長許可はこの1年、まるで意味がなかった」と批判する。

 免許延長の期限は2年後の19年7月6日。県幹部は「このままなら、中電は再び県に延長申請をすることになるだろう」とみる。

≪上関原発建設計画を巡る過去1年余りの主な動き≫

【2016年】
6月22日 中国電力が上関原発建設予定地(上関町)の公有水面埋め立ての免許期間を、19年7月までさらに1      年1カ月延長するよう県に申請。
7月28日 中電が計画する上関原発建設予定地の埋め立て免許取り消し請求訴訟で、山口地裁の裁判官3人が現地      を初めて視察。
8月3日 村岡嗣政知事が、中電が申請していた公有水面埋め立て免許の19年7月6日までの延長を許可。
23日  中電が上関原発建設を巡り、原発本体の着工時期の見通しがつくまで海の埋め立て工事をしないよう要請     した県に「趣旨を重く受け止め、慎重に対応」と回答。
30日  上関原発建設に伴う埋め立ての準備工事を妨害されたとして、中電が計画に反対する上関町祝島の住民た     ち4人に計約3900万円の損害賠償を求めた山口地裁の訴訟で和解成立。中電側は損害賠償の全額の請求     を放棄。
10月7日 県議会本会議で、中電の上関原発建設に絡み原子力政策の推進を国に求める意見書案を賛成多数で可      決。

【2017年】
1月6日 中電の清水希茂社長が年始のあいさつで訪れた県庁と上関町で報道陣の取材に応じ、「古い原子力が廃止     される中、日本で唯一の新規地点の上関は非常に重要」と推進姿勢をあらためて強調。
4月17日 村岡知事による建設予定地対岸の上関町祝島への訪問が荒天で中止。祝島航路に就航する新造船の祝賀      の一環だった。
6月17日 中電の上関原発建設計画に伴う漁業補償金を巡り、県漁協祝島支店(上関町祝島)が配分方法を採決す      る集会の開催を組合員に提案したことが判明。
30日 中電が建設予定地の断層を把握するため、原発の新規制基準を踏まえたボーリング調査を開始。
7月5日 漁業補償金を巡り、県漁協祝島支店が配分案を協議する集会開催の判断を当面先送りすると決定。

上関原発
 中国電力が上関町で計画し、改良沸騰水型軽水炉1、2号機の出力は各137万3千キロワット。埋め立て海域は約14万平方メートルで、中電は公有水面埋立法に基づき2008年10月、当時の二井関成知事から免許を受けた。中電は1年後に着工したが、福島第1原発事故後に中断。免許期限切れ直前の12年10月、3年延長を県に申請した。15年5月、16年6月にも延長を申請。村岡嗣政知事は16年8月3日、一括して19年7月6日までの延長を許可した。

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不服請求 国が却下

 中国電力が上関原発建設計画で予定地の海を埋め立てる免許延長を許可した村岡嗣政知事の判断は違法だとして県議6人が昨年11月、国土交通省に許可取り消しを求めた行政不服審査請求について、国交相は3日までに「原告不適格」として却下した。

 国交省水管理・国土保全局水政課によると却下理由は、県議6人は予定地から30キロ以上離れた場所に居住し、違法な処分がされても生命などに著しい被害を受ける恐れがあるとはいえない―など。決定は3月28日付。

 請求した戸倉多香子県議(民進党市民フォーラム、周南市)は「中身を審議しておらず残念。不適格とした判断について行政訴訟を起こすか検討中」としている。

(2017年8月4日朝刊掲載)

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