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社説・コラム

『この人』 広島大原爆放射線医科学研究所付属被ばく資料調査解析部の助教 久保田明子さん

惨禍の記録に再び光を

 出身地の東京を離れて、広島大原爆放射線医科学研究所(広島市南区)の被ばく資料調査解析部に勤めて2年余り。病理解剖された原爆犠牲者の記録が被爆直後に作られていたことを突き止めた。広島大の鎌田七男名誉教授が原医研に託した被爆者調査記録の展示も担当。被爆の惨禍を刻む貴重な記録に光を当て直す。「広島の資料に呼ばれたのかな」と屈託ない。

 専門はアーカイブズ学で、主に科学史研究の記録を社会資源として有効活用する。東京では私立高の地理歴史科の講師をしながら、大学の研究室を手伝っていた。資料整理と分析が面白くなり、この道に。寄生虫学の資料を探しに広島大医学部の医学資料館(南区)を訪れた際、保管状況に注文を付けたところ、専門性を買われて勧誘を受け、原医研への就職に結び付いた。

 広島の各所に、原爆に関連する膨大な資料が今も眠っていると知った。被爆から72年。「記憶が残っている人を捜し出せるぎりぎりのタイミング」。価値の見極めや分析に注力する。被爆者から資料の保存を拒まれ、衝撃を受けもした。「記憶を語りたくない人が多い。原爆は終わっていない」。その事実もつぶさに記録すべきだと考える。

 「科学はいつでも社会に説明できなければいけない」というのが持論。研究室のホワイトボードには、びっしりと医学、物理学者の相関図を書き込み、専門性を磨く。

 日本酒とウイスキーが好物。竹原市出身でニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝の資料を見に、スコットランドの大学を訪ねるのが夢だ。南区で暮らす。(野田華奈子)

(2017年8月6日朝刊掲載)

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