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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「八月の光 失われた声に耳をすませて」 次世代へ紡ぐヒロシマの声

 被爆2世としてヒロシマと向き合い続ける広島市出身の児童文学作家、朽木祥さん(60)=神奈川県鎌倉市=が、新装版「八月の光 失われた声に耳をすませて」を刊行した。不穏な世界情勢に警鐘を鳴らし、次の世代に向けて紡いだ7編の短編集だ。

 新装版には2編を加えた。「八重ねえちゃん」は、戦時中、飼っていた老犬を連れて行かれた少女の物語。「お国のため」と大人たちが賢いふりをする中、叔母の八重子だけは悲しみを共感してくれる。見て見ぬふりがやがて大きな悲劇をもたらす様を描く。

 もう一つの「カンナ あなたへの手紙」は、被爆後の焦土に芽吹き、市民に希望を与えたカンナがモチーフ。2012年の単行本に収録された3編、15年の文庫化に合わせて書き下ろした2編を含め、「あの日」を心に刻むための一冊だ。

 朽木さんはあとがきで、消息すらつかめない多くの犠牲者にも思いをはせ「ヒロシマの物語を書くということは、あるいは読むということも、そのような人びとの『失われた声』に耳をすませることなのだと私は考えています」とつづる。

 251ページ、1512円。小学館。(石井雄一)

(2017年8月6日朝刊掲載)

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