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社説・コラム

社説 艦載機の移転開始 基地の変容注視したい

 米海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機の移転がいよいよ始まった。大幅に機能が拡充される基地は今後どのように変容していくのだろうか。地元を中心に不安が根強く残っているだけに、冷静な目でチェックし続けなければならない。

 移転計画は、日米両政府が2006年に合意した在日米軍再編の一環だ。第1陣として、米海軍厚木基地(神奈川県)からE2D早期警戒機5機が岩国基地に到着した。当初、「6日ごろから」と通告されたが、悪天候などで9日になり、長崎原爆の日と重なった。地元の福田良彦岩国市長と山口県知事が遺憾の意を示したのは当然だろう。

 投下時刻の午前11時2分を避けたとはいえ、日本の事情にはお構いなしである。米軍の都合が最優先されることがあらためてはっきりした。地元の意向を聞く耳があるのか疑問だ。

 続く3機種56機の移転は、来年5月ごろまでに段階的に進められる予定だ。特に激しい騒音の主因とされるFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機計48機は11月ごろと来年5月ごろに移転してくる。年明けには、残った輸送機などが配備される。

 移転が完了すれば、岩国基地の所属は約120機と今の倍に増える。米空軍嘉手納基地(沖縄県)の約100機を超え、極東最大級の米軍基地となる。

 今年1月には、最新鋭ステルス戦闘機F35Bが米国外では初めて配備された。ミサイル発射を再三強行し、国際社会と対立を続ける北朝鮮や、中国にも近い。岩国基地の軍事的、地理的拠点性が格段に高まるのは間違いなかろう。逆に、攻撃目標にされないか不安も募る。

 加えて、軍人と軍属、家族計約3800人も一緒に岩国に移ってくる。基地の米軍関係者は1万人を超える見込みだ。市の人口の1割弱を占めることになる。市民生活の面でも、さまざまな影響を及ぼすだろう。

 問題は、深刻な騒音被害や事故のリスクなど不安が解消していないことだ。単純に考えても、飛行機が増えれば騒音や事故の回数は増えよう。岩国だけの問題ではない。低空飛行訓練に悩まされる広島県西部・北部、島根県西部などの住民も同じように感じているはずだ。

 きのうは、垂直離着陸輸送機オスプレイが岩国基地に飛来した。沖縄県から青森県の米軍基地に向かう途中だったようだ。オスプレイは5日、オーストラリア沖で墜落し、3人が死亡する事故を起こしたばかり。機体に欠陥はないと米軍は判断し、防衛省も認めた。原因はまだ調査中というのに、飛行再開は早すぎないか。納得できない。

 沖縄で基地関係者による事件が繰り返されるのを見ると、今後の治安が気になる住民もいるだろう。関係者が増えれば、事件や交通事故などの可能性も高まるかもしれないからだ。

 関係自治体は、基地の変容や騒音被害、事故、治安などに政府とともに今まで以上にしっかり目を光らせる必要がある。その上で、米政府にも言うべきことは言うことが欠かせない。

 そのためにも、住民の不安や疑問の声を丁寧に拾い上げて、政府や米国に対して物申す仕組みを整えたい。とりわけ22年度までに総額で200億円を超す再編交付金を受ける岩国市が果たすべき責任は重い。

(2017年8月12日朝刊掲載)

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