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社説・コラム

社説 平和首長会議 国際社会を動かす力に

 世界7千以上の都市が加盟する平和首長会議(会長・松井一実広島市長)は長崎市で開いた総会で、核兵器廃絶を訴える「ナガサキアピール」を採択して閉幕した。

 「核兵器禁止条約の早期発効をめざし、全加盟都市から自国の政府に働きかけていく」。国連で核兵器禁止条約が採択されたことしは、とりわけ首長たちの「決意」を心強く感じる。

 アピールには、全ての政府に署名と批准を求める内容を盛り込んだ。「特に核保有国と核の傘の下にいる国々の政府には強く働きかけていく」とも明記しており、高く評価したい。

 核を巡る国際情勢は厳しさを増す。米国には核軍縮に後ろ向きなトランプ政権が誕生し、北朝鮮は核実験やミサイル発射で挑発を繰り返す。首長会議には、利害や思惑が絡み合う国家間の厚い壁を、自治体外交の力で打ち破ってほしい。

 核兵器が使用されれば、都市と市民が最大の被害者になる。市民の安全を確保することは自治体の使命であり責務―。35年前、前身の「世界平和連帯都市市長会議」が発足したのもそうした首長らの思いからだった。

 いまや162カ国7417都市(今月1日現在)が集う巨大非政府組織(NGO)になった首長会議はその原点を守っているのだろう。今回の総会ではアピールに加え、副会長の田上富久・長崎市長の提案で「条約の早期発効を求める特別決議」が採択された。

 核兵器の使用や威嚇、保有、開発などを全面的に禁じた初の国際条約は9月20日、署名手続きが始まり、50カ国の批准で発効する。2020年までの廃絶を目指しながら、NGOとして具体的行動が示しにくかった従来と比べて目標は明確になった。特別決議はそれを見据えた強い意志の表れといえよう。

 問題は、会長と副会長を務める被爆地広島、長崎の両市長がどれだけ自国の政府を動かし、加盟都市に示せるかだろう。

 日本政府は依然として「核の傘」に固執する。条約の制定交渉にも「核保有国抜きで交渉を進めれば、非保有国との溝が深まる」などとして背を向けた。採択されると今度は署名しない方針を貫いている。

 首長会議は総会で、20年に向けての新たな行動計画も示した。この年までに核兵器廃絶を達成する目標は従来と変わらない。興味深いのは、テロや難民、環境問題などへの取り組みも加えた点だ。

 被爆地の訴えに対して共感の裾野を広げるためにも、核兵器の問題が、ほかの戦争や暴力の被害と同様、人道問題であることを伝えていく意義は大きい。NGOが立役者となった対人地雷全面禁止条約の成立過程(オタワ・プロセス)も、国家間のパワーバランスではなく、人道主義を貫いたことが成功に結びついたとされる。

 決議は「長崎を最後の被爆地に」との言葉を「永遠のものにするため力を尽くす」とも決意している。それを支えるのは、市民一人一人である。

 世論をいかに築くかも課題になる。著名人をキャンペーン大使に起用して政府に呼び掛けるという計画もあるが、人選もこれからだ。首長らの決意を、いかに国際社会に反映できるか。綿密な作戦が求められる。

(2017年8月13日朝刊掲載)

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