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社説・コラム

社説 原発と立地県知事 あやふやな公約通らぬ

 何やら巡り合わせめいたものを感じる。先日告示された茨城県知事選である。原発の是非が大きな争点となっており、投開票は今月27日だ。ちょうど60年前、同県東海村の原子炉が臨界状態に達し、日本の原子力産業の幕開けとも言える日である。

 知事選がにわかに注目を集めているのは、内閣改造後最初の大型地方選であるとともに、7選を目指す現職候補が日本原子力発電東海第2原発の再稼働について「無条件で認めない」と踏み込んだ発言をしたからだ。

 2011年の福島第1原発事故では茨城にも大量の放射性物質が降り、地元では不安が根強い。現職候補はこれまで、実効性のある広域避難計画の策定などを条件に挙げながらも、再稼働自体は否定していなかった。

 方針転換の背景には自身への多選批判をかわす狙いと、再稼働を「全くの白紙」とする自公推薦の新人候補との対立軸にしたい考えがあるのではないか。そういう見方が一部にある。

 共産推薦の新人候補は廃炉を唱える。政府・与党のみならず電力各社までもが知事選に強い関心を寄せるのは、原発再稼働などを巡って、立地県トップの意向を無視できないからだ。中国地方でも島根原発の再稼働や、山口・上関原発の新設計画において言えることである。

 そこで思い返されるのは「脱原発候補の連勝」と騒がれた昨年の鹿児島、新潟の知事選だ。ともに反原発の野党や市民団体の支援を受けた2人の新知事だが、そのスタンスに今は明確な違いが出ている。

 首をかしげざるを得ないのは鹿児島県の三反園訓(みたぞの・さとし)知事だ。昨年7月の知事選は立候補を取り下げた反原発団体代表と政策協定を結び、脱原発の統一候補として川内(せんだい)原発の一時停止を求めると訴えた。ところが、九州電力に拒まれると「私に原発を止める権限はない」とし、就任7カ月で運転容認に傾いた。鹿児島県民ならずとも驚かされた。

 さらには就任1年を前にした先月の会見で「選挙戦で言ったのは鹿児島を変えよう、再生エネルギーの推進をということだった」と述べた。まるで勝手に勘違いした有権者の方が悪いと聞こえる。疑念が地元で高まっているのも無理はなかろう。

 三反園氏と対比して語られるのが新潟県の米山隆一知事だ。昨年10月、柏崎刈羽原発の再稼働に反対して当選し、今なお東京電力には厳しい態度を取る。万一の避難方法や福島事故の原因についての検証がなされない限り「再稼働議論はできない」としており、検証には3、4年かかるとの見通しを示した。

 ただ最近の米山氏は再稼働への賛否について言及を避けている節もある。先日の会見も3年後の知事選に意欲をのぞかせ、再稼働について「きちんと明示して信を問う」と述べた。問題の先送りや日和見だと有権者に疑われれば信頼は失墜しよう。

 言うまでもなく率先垂範すべきは政府や各政党だろう。安倍政権は原発依存低減を掲げるが、3年前にまとめたエネルギー基本計画を見れば原発回帰は明らかだ。2030年代の原発ゼロを訴える民進党も党内の路線対立を抱え、本気度を疑う声がある。あいまいな公約や方便は許されない。原発をどうするのか。イエスかノーか分かりやすく、ぶれない訴えが聞きたい。

(2017年8月14日朝刊掲載)

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