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オスプレイ安全宣言 「地元無視」に岩国無力感

 垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの「安全宣言」を森本敏防衛相が19日、岩国市に伝え、米海兵隊岩国基地にある12機の試験飛行と沖縄配備が具体的に動きだすこととなった。「日米安保を盾に地元無視で進む計画だ」。市民はやるせない思いをかみしめた。(大村隆、堀晋也)

議連会長「米のシナリオ通り」

 「岩国での飛行は認められないという気持ちに変わりはない」。国の説明を受けた福田良彦市長は、淡々と答えた。しかし、森本防衛相は「準備飛行に入る」と明言。安保の壁が立ちはだかる自治体の姿が浮き彫りになり、会談の場は重たい空気に包まれた。

 2度の墜落事故を受け、米軍再編に協力姿勢の岩国市議21人でつくる「岩国基地問題に関する議員連盟」ですら、大半のメンバーが先行搬入に反対していた。桑原敏幸会長(64)は安全宣言を「結局、米国のシナリオ通り。防衛省はまるでペンタゴンの出先機関だ」と突き放した。

 地元の意向と関係なく進むオスプレイ配備。基地近くの車第3自治会の元会長高林孝行さん(72)は「安保がある以上、日米政府に頭越しに決められる。今回も、これからもそうだ」と憤る。2年後には厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機が岩国基地に移転する。「基地機能強化がどんどん進められる」と焦燥感を募らせた。

 元市基地対策担当部長で基地隣接の旭町1丁目の山本満治さん(75)は「米国では住民の反対で訓練中止の地域もある。なぜ政府は『日本でも中止を』と言えないのか」と訴える。

 部長時代は騒音軽減を目的に滑走路の沖合移設実現に奔走。だがその後、艦載機移転計画、オスプレイ搬入と続いた。「安保が本当に平和維持につながっているのか、対等の立場で話し合う時期に来ているのでは」と投げかけた。

<オスプレイ岩国搬入後の動き>

7月23日 岩国市の米海兵隊岩国基地に垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機が先行搬入される
   24日 岩国基地がオスプレイのエンジンを始動させると発表
   25日 オスプレイの回転翼を本格的に回す作業を開始▽二井関成前知事と岩国市の福田良彦市長が防衛省と
       外務省を訪れ、森本敏防衛相、玄葉光一郎外相に厳重抗議
   27日 米軍機の低空飛行訓練に反対する各地の市民団体などでつくる「米軍機低空飛行問題全国ネットワーク
       検討会」が、オス プレイの低空飛行訓練中止を米側に働き掛けるよう、10県計893人分の署名を添えて
       防衛省に申し入れ
   29日 知事選が投開票され、オスプレイについて安全性の確認前の強行搬入を国に抗議した二井氏の姿勢を全
       面的に支持する山本繁太郎氏が当選
8月 1日 オスプレイ配備に伴う飛行訓練が、西中国山地の訓練空域「エリア567」で行われる可能性があることが
       判明
    4日 森本防衛相が、パネッタ米国防長官とワシントン郊外の国防総省で会談後、ワシントン郊外でオスプレイに
       試乗
    5日 オスプレイの沖縄配備反対を訴え、JR西日本労働組合(JR西労)などでつくる「8・5沖縄県民大会と連帯
       する会」が岩国市麻里布町の市福祉会館で集会
    9日 県と岩国基地周辺の2市2町でつくる県基地関係県市町連絡協議会が、オスプレイを安全性が確認される
       まで飛行させないことなどを中国四国防衛局に申し入れ▽中国5県議会の正副議長会議でオスプレイにつ
       いて、納得できる安全性の説明などを求める国への要望書案を原案通り決定
   17日 米海兵隊がオスプレイが4月にモロッコで墜落した事故について、操縦ミスが重なったとの最終調査報告
       書を正式発表
   27日 野田佳彦首相が、オスプレイが4月にモロッコで起こした墜落事故に関し、機体の構造に問題はなく、人的
       ミスが原因だったとする日本独自の検証結果を森本防衛相から官邸で報告を受けて了承
   30日 森本防衛相が、県庁で山本知事と、岩国市役所で福田市長とそれぞれ会談し、オスプレイの墜落事故原
       因や政府の分析を説明。体験搭乗も提案
9月 1日 オスプレイ沖縄配備などに反対する全国の団体が岩国市福祉会館で交流集会
    7日 オスプレイが、6日に米国南部ノースカロライナ州の市街地に緊急着陸していたことが判明
    9日 オスプレイの普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)配備に反対する県民大会に約10万1千人(主催者発表)が
       参加。併せて先行搬入された岩国市や広島市でも集会
   10日 オスプレイが6月に米フロリダ州で墜落した事故に関し、副操縦士と機長による「人的要因が大きい」とする
       防衛省などの分析評価チームの報告書全容が判明。野田首相は森本防衛相から官邸で報告を受ける
   13日 防衛省が、下関市沖の日本海にある米軍訓練空域で試験飛行を実施する方向で米側と調整していること
       が判明
   14日 神風(じんぷう)英男防衛政務官が岩国市議会の全員協議会に出席し、オスプレイのモロッコと米フロリダ
       州の事故について「人的要因が大きい」などと説明
   16日 市民団体などでつくる実行委員会が岩国市役所前広場で沖縄県・尖閣諸島の領有権の正当性や、オスプ
       レイ配備への賛意をアピールする集会
   19日 森本防衛相が福田市長と山本知事を、それぞれ岩国市役所と県庁に訪ね、オスプレイについて政府の「安
       全宣言」を伝え、試験飛行開始に理解を求める

(2012年9月20日朝刊掲載)

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