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社説・コラム

社説 米朝の威嚇応酬 不測の事態 招く危うさ

 米国と北朝鮮が互いに武力行使も辞さないという強い言葉の挑発を繰り返している。激しい威嚇の応酬は、いたずらに緊張をあおり、不測の事態を招きかねない。偶発的な衝突は絶対に避けなければならない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発はここにきて、新たな段階に入ったとされる。7月上旬には、新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を2度繰り返した。小型核弾頭の開発に成功したとの分析も明らかになった。

 米国本土を射程に収める核ミサイルの配備が現実味を帯びる中、トランプ米大統領がまず仕掛けた。「米国を脅さない方がいい、世界が見たこともない炎と怒りに見舞われることになる」と、北朝鮮を強い言葉でけん制した。

 米政府の予想を上回るスピードで核・ミサイル開発が進んでいることへのいら立ちがあったのかもしれない。それでも、核兵器の使用を連想させるような発言は自制すべきだった。

 新型弾道ミサイル「火星12」4発を米領グアム沖へ同時に発射する計画だ―。すぐさま北朝鮮側も応じた。トランプ大統領の発言が「怒り狂うミサイル砲兵の神経を逆なでした」と、こちらも激しい言葉で反発した。

 さらに問題なのは、グアム沖を狙ったミサイルが発射された際、「島根、広島、高知県の上空を通過する」と飛行ルートまで北朝鮮側が明らかにした点である。名指しされた地域の住民からは不安や憤りの声が上がっている。度を越した挑発といえ、看過できない。

 政府は、万が一の日本落下に備え、ルートと名指しされた広島など中四国4県に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を配備した。だが、実際に対応できるかは未知数だ。政府は、どんなケースを想定し、どう対処していくのか、法的な根拠を含めて説明する必要がある。

 事実上のグアムへのミサイル発射予告は、21日から始まる米韓合同軍事演習をけん制するのが狙いとされる。グアムは米軍の要衝で、戦略爆撃機の出撃拠点となる基地もある。もし発射が強行されれば、かつてないほど軍事的な緊張が高まるのは避けられない。

 国際社会の制止を振り切り、核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮に非があることは言うまでもない。しかし、軍事的な報復をちらつかせ、対立姿勢を露骨に取り続けるトランプ大統領の言動も理解できない。

 米連邦議会の民主党議員約60人が、ティラーソン国務長官に書簡を送り、挑発的な言動を自制するようトランプ大統領に促すことを求めたのも当然だ。ティラーソン氏は北朝鮮に対話を求める考えも示している。トランプ大統領は政権内で政策調整を図り、対話を通じて問題を解決する姿勢を貫くべきだ。

 国連安全保障理事会は北朝鮮のICBM発射に対し、新たな制裁決議を採択した。制裁強化に慎重だった中国、ロシアも賛成した。主産品の石炭などの輸出を全面禁止する内容で、履行が徹底されれば年間輸出総額を3分の1に削減できる。

 資金源を断たれる北朝鮮にとっては大きな打撃になるはずだ。国際社会が結束し、核・ミサイル開発と経済発展は両立できないと粘り強く伝え、対話のテーブルに着かせるしかない。

(2017年8月15日朝刊掲載)

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