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社説・コラム

社説 終戦の日 記憶つなぐ努力重ねる

 「戦争が近づいている時代になってしまったという恐ろしさを感じる」。終戦から72年を迎えたきのう、本紙で紹介した尾道市生まれの映画監督、大林宣彦さんの言葉である。うなずきながら読んだ人も多かったのではないか。

 北朝鮮情勢が不穏さを増している。きのう、全国戦没者追悼式の直前に、安倍晋三首相とトランプ米大統領が電話で会談したことも、緊迫の度合いを象徴していると言えるだろう。米領グアム周辺に弾道ミサイル発射を予告した北朝鮮への対応を話し合ったという。

 戦争の犠牲者に静かに祈りをささげるべき終戦の日に、ものものしい議題での会談を迫られるような情勢となったことが、残念でならない。

 両首脳は、韓国を含む3カ国で緊密に連携し、発射を強行させないことが最も重要だとの認識で一致した。確かに、あらゆる外交努力を通じて北朝鮮に自制を求めなくてはならない。日本政府には引き続き、駆け引きが激しさを増す米朝に冷静になるよう促してもらいたい。

 こんなときこそ私たちは先の大戦を振り返り、二度と戦争をしないと誓う必要がある。しかし、戦没者追悼式での安倍首相の式辞から強い決意が伝わってきたとは、とても言えない。

 首相は「戦争の惨禍を繰り返してはならない」と強調した一方、「不戦の誓い」の文言を今年も避けた。首相に返り咲いた後の追悼式から5年連続で、アジア諸国への加害責任にも言及しなかった。惨禍を繰り返さぬのなら、植民地支配の歴史も含めて直視することが欠かせないはずではないか。

 対照的なのが、天皇陛下のお言葉だった。「過去を顧み、深い反省とともに、戦争の惨禍が繰り返されないことを切に願う」と語った。戦後70年の2015年に初めて使った「反省」を続けて盛り込んだことに強い意志を感じる。かつての戦地を巡って追悼を続けてきた陛下の非戦の思いの表れなのだろう。

 それぞれの言葉を、追悼式に参列した遺族はどう受け止めただろうか。遺族の世代交代は進む一方だ。参列者の4分の1が、孫ら戦後生まれという。

 大林監督は、かつての戦争を知っている世代は「戦争がないことが一番というのが皮膚感覚としてある」と語る。だからこそ、今の時代の恐ろしさを感じると指摘する。そんな感覚がどんどん薄らぐ中、私たちは何をすべきか。

 国内に目を向ければ、集団的自衛権を容認した安倍政権が、安全保障関連法の本格的な運用を始めている。自衛隊の活動の場が際限なく広がりかねない懸念がある。さらに今年5月、安倍首相は自衛隊を明記するための憲法9条改正論を提起した。

 平和憲法の意味を、あらためて考える時だろう。その礎となるのはやはり、戦争がいかに愚かなものかを知ることにほかならない。

 戦地に赴いた人のほとんどは90代になり、証言を聞く機会は少なくなるばかりだ。だからこそ夏を過ぎても、体験談を聞く機会を探し続けたい。大林監督の言うように映画でもいい。本も数多くある。戦争の記憶をたどり直す。そんな努力を重ねることで、今の時代がくっきり見えてくるのではないか。

(2017年8月16日朝刊掲載)

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