海自ヘリ岩国横転 主回転翼 跡形もなく 衝撃音と土煙 住民「ぞっとする」
17年8月18日
「ドーン」という音と土煙とともに、ヘリコプターが無残な姿をさらした―。17日、岩国市の海上自衛隊岩国基地で発生した海自のCH101の横転事故。海に突き出た一角で横倒しになった機体上部の主回転翼は跡形もないほど破損し、衝撃の大きさを物語る。滑走路を共同で使う米海兵隊岩国基地への空母艦載機移転も予定される中、基地と隣り合わせで暮らす住民たちに不安が広がった。
事故後間もなく、本社ヘリから事故機を見ると、機体は右側面を上にした状態で倒れ、周辺にはこすったような跡が広がっていた。壊れた部品は、22・8メートルある機体全長を超える範囲まで散乱。消防車も数台集まり、緊迫した様子だった。
「ヘリは順調に降下していたが、地上から3、4メートルの高さでぐらっと傾き、すとんと落ちた。その後、ドーンという大きな音と土煙が上がった」。滑走路を見渡す基地北側の堤防道路で事故を目撃した福山市の造園業男性(58)は、当時の状況をそう証言した。
堤防道路周辺では「落ちた」「何があったんだ」と一時騒然とした雰囲気に。夏休みで2、3日に一度は訪れるという岩国市今津町の高校3年山口翔太さん(18)は「風が強く、目を離した瞬間の出来事だった。こんなことが起こるとは」と驚きを隠せなかった。
同じ滑走路を使う米海兵隊岩国基地は、国内の米軍基地などを行き来する垂直離着陸輸送機オスプレイの中継地となっている。同型機はオーストラリア沖で墜落したばかり。さらに岩国基地へは来年5月ごろにかけて、米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機61機が順次移転し、事故のリスクは高まる。
基地近くに職場がある同市保津町の会社員大隈友貴さん(29)は「今回は基地内の事故で影響は少なかったが、街中に落ちていたらと思うとぞっとする」と不安がった。同市車町の無職男性(70)は「米軍基地の運用が拡大しており、より危険は増すのではないか。海自はきちんと事故原因を調べて説明し、住民の不安を解消してほしい」と訴えた。
海自岩国基地は事故のあった17日、記者会見を開かなかった。発生日時や航空機の種類などを知らせる報道発表は、発生から4時間近くたった午後6時すぎ。山口県や岩国市も情報収集に追われた。
同基地は事故発生直後から電話取材に応じた一方、地元報道陣が求めた会見を開かなかった。同基地は「細部について調査中で発表内容以上に伝えることがなかった」とする。
県や市は、事故から約35分後の同2時55分ごろに同基地から、事故があったとの電話を受けたという。
市は、事故の詳細について同基地と中国四国防衛局に照会したが、報道発表と同じ内容の文書が届いたのは同6時すぎ。市基地政策課は「詳細を確認し、安全対策や事故原因の早期究明を求めていきたい」としている。
早急な公表必要
国土交通省運輸安全委員会の元事故調査官で第一工業大の楠原利行教授(航空工学)の話 荷物をつり下げて運ぶ訓練の場合、ヘリ内の荷物の配置やつり荷の重量、重心位置を許容範囲内に保つ必要がある。夏場で気温が高いと空気密度が低くなるため、エンジン出力が落ちる。ヘリにある三つのかじの調和を欠き、バランスを崩した可能性もある。
自衛隊機の事故は自衛隊内の事故調査委員会が独自調査に当たる。独立機関の国交省運輸安全委による民間機事故調査とは異なる。岩国基地では自衛隊機に加え、米軍機も飛行し、それだけ事故の可能性が高くなる。地域住民に対し、早急に事故原因と今後の対策を公表していく必要がある。
<過去40年間に岩国基地周辺などで起きた主な海自機事故>
1977年4月 基地沖2キロの海上にPS1哨戒機(飛行艇)が墜落。1人死 亡、乗員6人負傷
78年7月 基地沖5キロの海上にPS1が不時着し、乗員1人負傷
83年4月 基地北東の遊水池にPS1が墜落し、乗員11人死亡、3人負傷
84年2月 愛媛県長浜町(現大洲市)から西2キロの伊予灘にPS1が墜落 し、乗員12人死亡
91年2月 U36A訓練支援機がオーバーランし滑走路北側側溝に転落。乗 員5人負傷
2003年5月 U36Aが滑走路北側に墜落し炎上。乗員4人死亡
15年4月 高知県足摺岬の北東約40キロの洋上で救難飛行艇US2が離水 に失敗し、5人負傷
(2017年8月18日朝刊掲載)
事故後間もなく、本社ヘリから事故機を見ると、機体は右側面を上にした状態で倒れ、周辺にはこすったような跡が広がっていた。壊れた部品は、22・8メートルある機体全長を超える範囲まで散乱。消防車も数台集まり、緊迫した様子だった。
「ヘリは順調に降下していたが、地上から3、4メートルの高さでぐらっと傾き、すとんと落ちた。その後、ドーンという大きな音と土煙が上がった」。滑走路を見渡す基地北側の堤防道路で事故を目撃した福山市の造園業男性(58)は、当時の状況をそう証言した。
堤防道路周辺では「落ちた」「何があったんだ」と一時騒然とした雰囲気に。夏休みで2、3日に一度は訪れるという岩国市今津町の高校3年山口翔太さん(18)は「風が強く、目を離した瞬間の出来事だった。こんなことが起こるとは」と驚きを隠せなかった。
同じ滑走路を使う米海兵隊岩国基地は、国内の米軍基地などを行き来する垂直離着陸輸送機オスプレイの中継地となっている。同型機はオーストラリア沖で墜落したばかり。さらに岩国基地へは来年5月ごろにかけて、米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機61機が順次移転し、事故のリスクは高まる。
基地近くに職場がある同市保津町の会社員大隈友貴さん(29)は「今回は基地内の事故で影響は少なかったが、街中に落ちていたらと思うとぞっとする」と不安がった。同市車町の無職男性(70)は「米軍基地の運用が拡大しており、より危険は増すのではないか。海自はきちんと事故原因を調べて説明し、住民の不安を解消してほしい」と訴えた。
海自、会見開かず 発表は4時間後
海自岩国基地は事故のあった17日、記者会見を開かなかった。発生日時や航空機の種類などを知らせる報道発表は、発生から4時間近くたった午後6時すぎ。山口県や岩国市も情報収集に追われた。
同基地は事故発生直後から電話取材に応じた一方、地元報道陣が求めた会見を開かなかった。同基地は「細部について調査中で発表内容以上に伝えることがなかった」とする。
県や市は、事故から約35分後の同2時55分ごろに同基地から、事故があったとの電話を受けたという。
市は、事故の詳細について同基地と中国四国防衛局に照会したが、報道発表と同じ内容の文書が届いたのは同6時すぎ。市基地政策課は「詳細を確認し、安全対策や事故原因の早期究明を求めていきたい」としている。
早急な公表必要
国土交通省運輸安全委員会の元事故調査官で第一工業大の楠原利行教授(航空工学)の話 荷物をつり下げて運ぶ訓練の場合、ヘリ内の荷物の配置やつり荷の重量、重心位置を許容範囲内に保つ必要がある。夏場で気温が高いと空気密度が低くなるため、エンジン出力が落ちる。ヘリにある三つのかじの調和を欠き、バランスを崩した可能性もある。
自衛隊機の事故は自衛隊内の事故調査委員会が独自調査に当たる。独立機関の国交省運輸安全委による民間機事故調査とは異なる。岩国基地では自衛隊機に加え、米軍機も飛行し、それだけ事故の可能性が高くなる。地域住民に対し、早急に事故原因と今後の対策を公表していく必要がある。
<過去40年間に岩国基地周辺などで起きた主な海自機事故>
1977年4月 基地沖2キロの海上にPS1哨戒機(飛行艇)が墜落。1人死 亡、乗員6人負傷
78年7月 基地沖5キロの海上にPS1が不時着し、乗員1人負傷
83年4月 基地北東の遊水池にPS1が墜落し、乗員11人死亡、3人負傷
84年2月 愛媛県長浜町(現大洲市)から西2キロの伊予灘にPS1が墜落 し、乗員12人死亡
91年2月 U36A訓練支援機がオーバーランし滑走路北側側溝に転落。乗 員5人負傷
2003年5月 U36Aが滑走路北側に墜落し炎上。乗員4人死亡
15年4月 高知県足摺岬の北東約40キロの洋上で救難飛行艇US2が離水 に失敗し、5人負傷
(2017年8月18日朝刊掲載)