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海外に住む被爆者の健康手帳 現地申請が可能に

■記者 岡田浩平

 改正被爆者援護法が15日施行され、海外に住む被爆者(在外被爆者)が、最寄りの大使館や総領事館で被爆者健康手帳を取れるようになった。遅れていた在外被爆者の救済が一歩進むが、原爆症認定の申請の受け付けや医療費助成の見直しはめどが立っておらず、依然、国の内と外で支援に差が残る。

 厚生労働省は英語、ハングル、ポルトガル語でそれぞれ書いた手帳の申請書を在外公館に置き、申請を受け付けている。申請書は各館から広島、長崎の県庁か市役所へ送り、書類を審査した後、担当者が現地で本人と面談し、館を通じて手帳を渡す。

 在外被爆者は長年、来日しない限り援護法の対象になっていなかった。しかし、大阪高裁が「被爆者はどこにいても被爆者」と認定し、援護法に基づく健康管理手当を韓国の被爆者に支払うよう命じた判決が2002年、確定。翌年には在外被爆者の手当を受ける権利を妨げてきた1974年の旧厚生省局長通達が廃止された。

 昨年11月には三菱広島元徴用工被爆者訴訟で、最高裁が在外被爆者を放置してきた国の賠償責任を認め、海外でも援護法を適用するよう命じた。これを受け、手帳を取るための「来日要件」をなくす改正被爆者援護法が議員立法で今年6月に成立、公布された。

 また、改正法では付則で原爆症認定の申請について「必要な措置を講じる」よう定めたが、厚労省は「医師とのやりとりなど課題が多い」と実施を先送り。医療費の助成は国内では自己負担分が無料だが、海外では年間14万5000円が上限になっている。付則で国内の状況を踏まえた見直しも求めているが、医療や保険の制度が海外と日本とは異なり、検討は進んでいない。

 また、改正法の施行を受け、韓国・大邱市在住の韓国人女性が15日、釜山の日本総領事館に手帳を申請した。同総領事館などが明らかにした。

 韓国原爆被害者協会によると、女性は80歳代で、広島市で被爆。既に事前審査を済ませ、日本の自治体が発行した「被爆確認証」も持っており、速やかに手帳が交付される見通しという。

(2008年12月16日朝刊掲載)


在ブラジル被爆者訴訟 広島県、争う姿勢示す

■記者 野田華奈子

 来日しないことを理由に被爆者健康手帳の交付申請を却下したのは違法として、ブラジル在住の日本人女性と男性計2人の遺族が広島県知事の処分取り消しなどを求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が15日、広島高裁であった。県側は、2人が亡くなり処分取り消しを求める訴えの利益がないと主張。被爆者側はあらためて控訴取り下げを求めた。

 現在、手帳交付の申請日を交付日とみなしているが、県側は控訴理由書で「法的根拠はなく実務上の扱い」と強調。「手帳交付の効力は、交付日からであり、申請日にさかのぼることはない」とした。

 被爆者側の代理人弁護士は「改正被爆者援護法が本日施行され、控訴を維持する実質的な意味がなくなった」として控訴取り下げを訴えたが、県側は否定し争う姿勢を示した。

 閉廷後、在ブラジル被爆者訴訟の支援を続ける田村和之・龍谷大法科大学院教授は「これまでの手帳交付の扱いと県の主張は合わない。非常に不可解」と不信感を表明。「主張に沿えば、申請から交付までの間に自己負担した医療費などが支払われなくなることになる。まだ争うのか」と県側の姿勢を批判した。

(2008年12月16日朝刊掲載)

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