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連載・特集

『生きて』 医師・広島大名誉教授 鎌田七男さん(1937年~) <12> 原爆養護ホーム

被爆者目線 自らも実践

  広島市内の原爆養護ホーム3園を運営する広島原爆被爆者援護事業団の理事長に2001年に就き、「倉掛のぞみ園」園長も16年間担う
 「受けてもらえないか」。石田明さん(全国被爆教職員の会会長)から打診されたんです。広島大時代に治療をして付き合いがあり、石田さんは当時の市長さんと懇意でした。市原爆被害対策部を訪ねたら、「医師の待遇ではありませんよ」と言われた。広島大退職後に勤めた民間病院の給与からほぼ3分の1となったが、ためらいはなかったですね。

 被爆者と共に自分も年を重ねている。そう実感していたし、寄り添うのは必然です。就任に当たり、自らの行動訓を定めた。「一、被爆者の目線であるか 二、公正の原則上であるか 三、誠実な対応であるか」と書いて園長室に掲げました。

 のぞみ園(安佐北区)の定員は300人と、原爆養護ホーム3園(計500人、職員は194人)のうち最も多い。被爆者の介護にとどまらず、地域におけるモデルにしようと考えました。園長に就くと3日もたないうちに併設診療所の非常勤医師を頼まれ、職員の健康診断にも当たりました。介護現場を担う職員との融和の上に、技術の向上を図る教育・研修に力を注ぎました。

 午前8時15分に出勤し、午後9時まで園の仕事に没頭した。入園者との触れ合いはもちろんです。毎月の誕生日会や、季節ごとの行事、山本コウタローさんらによる毎年8月6日の園内コンサート…。「園で生活してよかった」と、ご家族も思える環境づくりに心を砕きました。

 職員の介護力が基本です。理事長として考えていることを2週間に1回、必ず全職員に伝えた。原爆放射線の影響も講義しました。高齢化の進行で05年からは「看取(みと)り研修」を、11年には「胃瘻(いろう)・喀痰(かくたん)吸引研修」を始めます。資格を取得すると記念アルバムを作って贈りました。

  被爆者の平均年齢は81・41歳を数え、広島県在住は約7万4千人となった(今年3月末現在)
 在宅でも心安らかに長生きし、避けられない死にどう臨むか。暮らしの中で体を使い、衰えを防ぐ。家族の協力も必要です。そして介護現場では職員教育が欠かせません。

(2017年8月10日朝刊掲載)

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