×

連載・特集

『生きて』 医師・広島大名誉教授 鎌田七男さん(1937年~) <13> 「広島のおばあちゃん」

自費で刊行 1万部超す

  広島大の退職金を充て2005年、原爆被爆の実態を分かりやすく解説した学習本を自ら刊行した
 原爆が人間にもたらした悲惨さ、非人道性をどう伝えるか。科学の最先端で追究していた大学を離れると、痛感しましたね。一般にはきちんと知られていないし、大学の研究が原爆に対する理解にそれほど影響を与えていなかったことを。

 広島原爆被爆者援護事業団の理事長に01年に就き、原爆養護ホーム3園の職員教育に当たりますよね。自ら「Q&A」を12問作り、介護を担う若い人たちに入園者の心身を理解してもらうため、しつこいほど説明しました。市内に残る被爆建物や樹木の写真も自分で撮り、「Q&A」が45問に上った。一般向けの本にして理解を広げようと思ったんです。

 それが「広島のおばあちゃん」(A4判、119ページ)です。放射能とは何なのか、受けた原爆放射線量はどれくらいか、白血病など各種のがんはいつごろから起き、今はどうなっているのか、子どもへの影響は、平和な世界に向かって私たちは何ができるのか…。

 おばあちゃんが「過去」「現在」「未来」についての質問に、左側ページで中学・高校生向け、右側で社会人向けに答える形式をとり、被爆60年を期してまとめました。面識はなかったんですが、原稿を吉永小百合さんに送ると、推薦の言葉とご本人の写真が寄せられ、使用もいいですよ、と。1冊千円に収めて初版は2千部を刷り、原爆資料館のミュージアムショップと、書店は紀伊国屋で扱ってもらった。

  「広島のおばあちゃん」は、通例2千部が売れるかどうかの原爆関連本では異例のロングセラーとなる
 今、6刷ですから1万部は超えています。売上金はすべて事業団に還元しました。入園者の温熱治療器や来訪者への説明に使うプロジェクターなどです。さらに、小倉桂子さん(「平和のためのヒロシマ通訳者グループ」代表)らの協力を得て、07年には英訳版を刊行しました。

 英訳版の「ワン・デイ・イン・ヒロシマ」は、海外からの訪問者をはじめ、広島からの派遣者にも託して広めています。核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のサイトで全文をPDF版で読むことができます。

(2017年8月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ