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社説・コラム

社説 柏崎刈羽原発と規制委 再稼働ありきの審査か

 変節のそしりは免れないだろう。原子力規制委員会が、厳しい姿勢で臨んできた新潟県の東京電力柏崎刈羽原発に対し、一転して再稼働に向け安全のお墨付きを与える方針を固めた。

 対象は6、7号機で、規制委としては13日に、事実上の「適合」証明に当たる審査書案を了承したい考えのようだ。2011年に福島第1原発事故を起こしてから東電では初めての審査適合で、同型の沸騰水炉の審査パスも全国初となる。

 今回の審査では柏崎刈羽原発の安全対策は当然ながら、東電がそもそも原発事業者として「適格」かどうかが議論の大きなウエートを占めた。福島事故を起こした東電は「他の電力会社とは違う」との田中俊一委員長の問題意識があったからだ。

 福島事故の原因は解明されておらず、避難生活者はなお5万人以上。廃炉などの事故処理に巨額の国費も投じられている。

 東電はこれまで「廃炉をやり遂げる」などとする回答を規制委に示したが、汚染水や廃棄物処理は具体性を欠き、ゼロ回答に等しかった。「単なる決意表明」と冷ややかな声もあった規制委がなぜ、再稼働にゴーサインを出そうとするのか。説明を尽くすべきは東電のみならず、田中委員長にも言えることだ。

 「第1原発の廃炉を主体的に取り組めない事業者に再稼働の資格はない」。7月の会合では東電の姿勢を厳しく批判していた。地元に寄り添って仕事をするとした東電経営陣に向け「口先だけにしか聞こえない」と一喝する場面も。福島の被災者の怒りや新潟県民の疑問を代弁しており、規制委にエールを送った国民は少なくないだろう。

 今回の審査を通じて、東電の隠蔽(いんぺい)体質があらためて浮かび上がった。免震重要棟の耐震性不足を3年前に把握しながら、今年2月まで報告していなかった。液状化で防潮堤が壊れる恐れも判明した。それだけに、今月6日の規制委での方針転換には首をかしげざるを得ない。

 「事故責任と(安全確保の)技術力は別」「事故経験はプラスになる」との発言には耳を疑う。変節ではないかとの問いに田中委員長は「これまでの言葉尻を捉えている」と述べた。これでは再稼働ありきで、東電への厳しい指摘も世論のガス抜きだったと勘繰りたくもなる。

 背景はさまざま取り沙汰されている。18日に退任する田中委員長の花道を飾る「駆け込み容認」だとか、原発再稼働を前提とする東電の経営再建計画を破綻させないためだとか。新規制基準には明記されていない「適格性」を押し通せば訴訟を起こされるリスクがあるとの見方もあったようだ。いずれにしても規制委への国民の失望や不信感が膨らんだことは確かだろう。

 週明けの審査書案の了承は避けるべきだ。なぜなら規制委が首を縦に振っても、地元同意という高いハードルがあり、状況はすぐに変わらないからだ。

 米山隆一新潟県知事は万一の避難方法や福島事故の原因などの検証がなされない限り「再稼働議論はできない」とし、3、4年かかるとの見通しを示している。規制委も同じスケジュール感を持つべきだろう。今回の判断は各地で進む再稼働論議にも影響しかねない。規制委は拙速や方便を慎み、国民の声に誠実に耳を傾けねばならない。

(2017年9月10日朝刊掲載)

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