社説・コラム

天風録 『松根油の記憶』

 ショウコンユと聞き、「松根油」がすぐ思い浮かぶのは戦中派だろう。米国の経済制裁などで石油が底を突き始め、軍用機の代替燃料として政府は松から油を取るよう国民に命じる▲根っこを蒸し焼きにしたり、幹に傷を付けたりしてタールや松やにを取った。「掘れ、出せ、休むな、特攻隊を嘆かすな」。広島県が当時掲げた増産運動のスローガンである。エネルギーを絶たれる締め付けがいかに厳しかったかを物語っていよう▲北朝鮮に対しても、米国は石油禁輸を「最強の制裁」と考えたようだ。国連安全保障理事会ではひとまず矛を収めた。ただ今後も核・ミサイルによる挑発を続けようものなら、その限りではないというのだろうか▲一方で中国やロシアが唱える「人道的見地」とは何か。恩恵にあずかるのは北の軍や特権階級に限られる。爪に火をともすような暮らしから、庶民を救い出す手だてを講じねばならない▲徳山の海軍燃料廠(しょう)でも精製されていた松根油は結局どうなったのか。戦闘機などに使われた記録は定かではないという。物言わぬ「証人」は各地にわずかに残る松である。幹に刻まれた松やに採取の傷こそ、戦争の愚かさを今に伝えている。

(2017年9月13日朝刊掲載)
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