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Peace Seeds ヒロシマの10代がまく種(第48号) 知ろう、動こう核兵器禁止条約

 核兵器禁止条約を、皆さんは知っていますか。7月7日、米ニューヨークの国連本部であった制定交渉(こうしょう)会議で、多くの国が支持して作られました。

 核兵器のない世界は、たくさんの人が望んでいます。72年前に広島と長崎に落とされた原爆の悲劇や、被爆者の抱(かか)える苦しみ、核実験で被害(ひがい)を受けた人たちの訴(うった)えを知っているからです。禁止条約の成立は、核のない世界を実現するための第一歩。ジュニアライターが条約について賛否を聞いたシール投票でも、賛成する人がほとんどでした。

 しかし、被爆国でありながら、米国の核の傘(かさ)に入る日本政府は「条約に署名しない」と主張しています。きょう21日は国連の呼び掛(か)ける「国際平和デー」。世界の停戦と非暴力の日として、敵対行為(こうい)をやめるよう目指す日です。核のない世界が実現できるかどうか、次は市民の行動力にかかっています。

<ピース・シーズ>
 平和や命の大切さをいろんな視点から捉(とら)え、広げていく「種」が「ピース・シーズ」です。世界中に笑顔の花をたくさん咲かせるため、中学1年から高校3年生までが自らテーマを考え、取材し、執筆しています。

紙面イメージはこちら

条約に賛成?反対? 平和公園周辺でシール投票

賛成340票 反対3票 どちらでもない13票

 ジュニアライターは、核兵器禁止条約について賛否を聞くシール投票を、平和記念公園(広島市中区)周辺で8月6日と9月3日の2日間、呼び掛けました。結果は、賛成340票▽反対3票▽どちらでもない13票―と賛成が圧倒的(あっとうてき)多数でした。

 賛成の赤いシールを貼(は)った人の中には「絶対に核兵器はいけん」と話し掛けてくる被爆者の女性もいました。外国人観光客は、英国など核兵器を持つ国の人も全て賛成だったので驚(おどろ)きました。ドイツ人の男性(63)は「保有国や、日本を含め米国の同盟国が条約に参加しないのは間違っている」と批判していました。

 どちらでもないと緑のシールを貼った西区の男性(44)は核兵器のない世界は望んでいますが、「核を持つことが世界の主導権を握る方法になっている。一つの国が持つと他の国も持ちたがるので、主導権を取る方法を変えないと実現できない」と指摘(してき)しました。

条約のポイントはここ!

前文 ヒバクシャに触れる

 前文(前書き)で広島・長崎の被爆者に触(ふ)れています。「核兵器の使用による被害者(ヒバクシャ)の受け入れがたい苦痛と危害に留意」「ヒバクシャによる目標達成への努力を認識」

あらゆる利用を禁止する

 核兵器のあらゆる利用を禁止。使用はもちろん、開発、実験、製造、軍事基地への配備、国同士の売り買い、国内への他国の核兵器の配備、「あなたの国に使うかも」といった脅(おど)しも。

保有国 条件付きで結べる

 核兵器保有国も条約を結べる。ただし「核をなくす」と宣言し、廃棄(はいき)に向けた具体的な計画など条件が必要。ちゃんと核を廃棄するか、国際機関がチェック。

核の被害者出たら助ける

 条約を結んだ国は核兵器による悪影響(えいきょう)が出たとき、被害者に医療(いりょう)や心理的なケアをしたり、環境(かんきょう)を改善したりして救援(きゅうえん)。

50ヵ国以上が入れば効力

 50以上の国が「守ります」と表明し、手続きを完了(かんりょう)すれば効力がスタート。

<非核国・市民が行動して成立>

 これまで化学、生物の大量破壊(はかい)兵器や、対人地雷(じらい)、クラスター爆弾といった非人道兵器を禁止する国際条約はありました。しかし、核兵器も大量破壊兵器なのに、禁止する条約はありませんでした。

 核拡散防止条約(NPT)はありますが、核兵器が、所有を認められた5カ国以外に広がることを禁止する内容です。そこで近年、核を持たない国や市民が核兵器の危険性や非人道性に気付き、「大量に人を殺す核兵器を持っている方が国の安全にはならない」という声を上げました。

 原爆による苦しみを受ける被爆者の声も運動を後押(お)し。国際世論の高まりや、保有国による核軍縮が進まない状況を踏(ふ)まえ、オーストリアやメキシコなどが中心となり昨年の国連総会で核兵器禁止条約を作るため交渉会議を開くことが決まりました。会議は今年3月と6~7月の2回開かれ、最終的に122カ国が賛成して条約が成立しました。

交渉に参加 広島平和文化センター小溝理事長

「ノーモア」願い伝わった 一人一人の行動 力になる

 核兵器禁止条約を作る交渉会議に、世界7400以上の都市が加盟する平和首長会議の事務総長として参加し、意見を述べました。

 条約は異例の早さで成立しました。細かい文言で主張し合う国々も、今回は譲歩(じょうほ)し、たった2回の会議で出来上がりました。被爆者が訴えたメッセージが国々を動かしました。「私たちが最後になればいい、つらい体験をもう誰(だれ)にもしてほしくない」という願いが伝わったのです。

 憎(にく)むのではなく、世界全体の平和を願う心は各国の尊敬の念を集め、条約では前文の2つの段落に“hibakusha”の文字が刻まれました。核兵器による被害を二度と繰り返してはいけないという共通の意識が、国の違(ちが)いを越(こ)えて生まれた証しです。

 これまで世界の安全保障は、核兵器を持つことで他の国に攻撃(こうげき)を思いとどまらせる「核抑止(よくし)」という考えが柱でした。しかし、相手を信用できないと固定化して考え、脅(おど)しで解決しようとする状況(じょうきょう)は決して平和とはいえません。文化や肌(はだ)の色、国籍(こくせき)などが違っても、互(たが)いに認めて話し合い、共通点を見つける道筋が大切です。

 交渉会議には、条約に反対する保有国などは参加しませんでしたが、保有国が加わらなければ法的な拘束(こうそく)力を持たず、ただの宣言になってしまいます。保有国や核の傘(かさ)に入る国が後からでも輪に入れるよう、条文を追加できたり、ルール違反(いはん)する国がいないかチェックできたりする内容を提案しました。

 ただ、未来への重要な出発点になるかどうかは今後の市民社会の力しだいです。指導者任せでは、核兵器のない世界は実現できないからです。第五福竜丸事件を受け原水爆禁止の署名運動を始めた東京の主婦や、原爆症で亡くなった友を忘れないため「原爆の子の像」を建てようと努力した広島の子どもたちのように、一人一人が主体者になる必要があります。

 北朝鮮が核実験を強行するなど、シビアな現実も待ち構えます。保有国が核に依存(いぞん)せず削減(さくげん)していく模範(もはん)を示すことが長期的には必要ですが、何度失敗しても真剣(しんけん)に対話を続けるべきです。時間はかかっても相手の心にインパクトを与(あた)えられる可能性があるからです。(談)

ジュニアライター提言

 取材を踏まえ、禁止条約を生かして核兵器のない世界をどう実現するかを考えてみました。次のような提案が出ました。

若者の交流増やす/非人道性伝えよう

◆日本の若い世代が海外の子どもと交流する機会を増やし、協力して新しい世界をつくるきっかけにする。広島の子どもは被爆者の思いも伝える。

◆日本は核兵器の非人道性を伝えていく。保有国が核をなくすと宣言する勇気が持てるようにする。

◆まず自分の国を守らなければいけない事態にならないよう、国同士でよく話し合う。核兵器の恐(おそ)ろしさや被害を知ってもらい、核に頼(たよ)る方法をやめる。日本は被爆したのだから、米国に遠慮(えんりょ)しないで堂々と核兵器廃絶を訴えるべきだ。

◆一人一人が声を上げて大きな声になれば、核兵器禁止条約に署名しないという政府の方針も変わるはず。

◆核兵器禁止条約に参加できる規定をもう少し和らげ、入り口を広げる。

◆核拡散防止条約(NPT)も強化し、保有国がこれ以上増えないようにすることが大切。少しずつ核軍縮することも必要では。

 この取材は高2岩田央、上長者春一、沖野加奈、高1藤井志穂、溝上藍、中3伊藤淳仁、川岸言織、中2植田耕太、中1林田愛由が担当しました。

(2017年9月21日朝刊掲載)

【編集後記】  小溝さんへの取材から、核兵器禁止条約について学び、考えを深めることができました。「核廃絶は長い時間がかかるかもしれない。それなら今始めないと」という言葉がとても印象的でした。「長い時間がかかるから無理」ではなく、動き始めるためのプラスの原動力へ変えられる力強さを感じました。テーマが深く、グローバルなだけに取材や執筆は難しかったですが、 自分の視野を広げることができました。(沖野)

 核兵器禁止条約に対する核兵器保有国や米国の核の傘に入る国々の対応から、核兵器廃絶に対しての各国の距離感を感じました。また、日々刻々と変わっていく世界情勢の中で政治的判断を必要とする核問題の根深さを改めて考えさせられました。(上長者)

 小溝さんが「被爆者のメッセージが人々の心を打ち、各国を条約完成へと動かした」と話していたのが印象に残っています。直接、核兵器の脅威を知らない私たちが、大人になって平和な世の中をつくるための第一歩は、戦時中の悲惨な経験を知ることだと思います。国内ももちろん、国外で、核兵器の危険性に対する認識がさらに深まり、廃絶への動きがもっと活発になるには、被爆者の思いがより広く知られることが大事だと改めて感じました。(藤井)

 今回は、世界が平和になるためにどうすればいいのかということを考えるとても良い機会になりました。安全保障として核を持っている国の間違いは根本的に、「敵対する相手がいる」という固定概念を持っていること、という小溝さんの意見を聞くと、今までのもやもやした気持ちが晴れた気がします。核兵器をなくすことが目標ではなく、世界が平和になるのが目標です。私はジュニアライターとして平和への思いをみんに伝えることで世界に貢献したいと改めて思いました。(溝上)

 初めて僕は、核兵器禁止条約について考えました。これまで条約の名前だけは知っていても、内容はよく分からないといった感じでした。しかし、今回調べてみて、一口でこうだと言い切れなかったり、国の立場によって考えないといけないことが違っていたりして、内容の濃い取材ができました。これをきっかけに今後も、少し難しいテーマに挑戦しつつ、自分の意見を持ち続けていこうと思いました。(植田)

 核兵器禁止条約を、どうして日本が署名しないのかとても不思議に思っていました。そこで、核兵器のない世の中にするため、具体的な方法を考えてみると、なかなか良いアイデアが思い浮かびませんでした。核兵器のない世の中を実際につくるのは思っている以上に大変な事なんだということを実感しました。(林田)

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