×

連載・特集

[ヒロシマは問う 北朝鮮核開発] 島根県立大総合政策学部教授 福原裕二さん

対話で危機感取り除け

  ―北朝鮮が15日も北海道上空を通るミサイルを発射しました。一連の挑発をどう見ますか。
 核実験やミサイル発射は基本的にはアクションではなく、リアクションだ。とりわけ金正恩(キムジョンウン)政権では、軍事演習など、日米韓が北朝鮮に対する安全保障的な脅威を与えたとみれば、応じている。今回も国連安全保障理事会の制裁決議に対するメッセージだろう。

 北朝鮮は冷戦後、安全保障環境が悪化したと感じた。米国を動かせば改善すると考えたが、全く相手にされなかった。だから、国際的影響力を持つ手段として、核に目を付けた。米国を交渉の席に出して平和条約を結び、体制を保証してもらうのが目標。そこに至るまで核、ミサイル開発はやめないだろう。

  ―日米などは圧力を強めています。効きますか。
 米国はオバマ前政権で「戦略的忍耐」と言って北朝鮮を放置した。国際社会も制裁を重ねた。にもかかわらず、北朝鮮は経済成長し、核、ミサイル技術は向上した。成功物語だ。今の段階で変わりようがない。

  ―毎年、北朝鮮に調査へ行かれています。何か変化を感じますか。
 今年は8月中旬に1週間ほど訪れた。平壌で子どもたちが「一心団結」「核強国」というプラカードを掲げて歩いていた。研究者や市民に尋ねると、自分たちは国際的に封じ込められ安全保障上の危機にあるという共通認識を持っている。「核兵器のない世界がいいが、持たざるを得ない」「米国が脅すなら抵抗する」と言う。

 制裁が軍事を挫折させる形で働けばいいが、結局は民生を圧迫する。今年はビールの祭典や航空ショーがなかった。今月には、北朝鮮の労働者調査でモンゴルに行った。政府間の契約で、千~2千人ほどいる。建設現場で働き、月給の半分は手元に入ると言われ、母国の家族の生活を支えている。制裁で止まれば、国民に不満がたまり、北朝鮮政府は国際社会に責任を転嫁するだろう。

  ―問題の打開策は。
 北朝鮮の病根は安全保障上の危機感。そこを治さないといけないのに、核には制裁をと、国際社会は症状に対応している。病根を取り除くには対話しかない。

 6カ国協議で2007年2月にまとめた合意文書に立ち戻るべきだ。朝鮮半島の検証可能な非核化や北朝鮮へのエネルギー支援をする内容。これを誠実に履行できる枠組みを再確認し、民生を向上させて変化を迫る方が効き目があると思う。要するに太陽政策だ。ヒロシマからも対話を求めて声を上げていくべきだ。(聞き手は岡田浩平)

ふくはら・ゆうじ
 1971年、岡山市中区生まれ。広島大大学院国際協力研究科博士課程を修了。島根県立大北東アジア地域研究センター助手などを経て2016年から同大総合政策学部教授。専門は国際関係史、朝鮮半島地域研究。13年から毎年、北朝鮮で現地調査をしている。

(2017年9月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ