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[インサイド] 避難マニュアル作成57% ミサイル対応 中国地方でも遅れ

 ミサイル攻撃を受けた際に住民の避難誘導の責任を負う市町村で、対応マニュアル作りが全国的に進んでいない。国民保護法に基づき、国は2005年から全市町村に作成を求めてきたが、中国地方でも完成させたのは6割弱にとどまる。北朝鮮情勢が緊迫化する中、未整備の市町村は作成を急ぐが、「市町村レベルで事態を想定するのは限界がある」との声が漏れる。(長久豪佑、松本大典)

 04年施行の同法は、市町村に対し、外国からの武力攻撃やテロが起きた場合には、住民の移動手段や避難先をまとめた「避難実施要領」を速やかに策定、安全確保に努めるよう義務付けた。緊急時には混乱が予想されるため、国は05年、弾道ミサイルや化学兵器による攻撃など複数の事態を想定し、避難施設や輸送方法、住民への情報伝達などを具体的に記したマニュアルを作るよう求めた。

定期的に改定

 しかし、総務省消防庁によると今年4月1日現在、全国1741市区町村のうち作成済みは787自治体(45・2%)。中国5県の計107市町村では61自治体(57・0%)が作成済みで、作成中は4自治体(3・7%)、未作成は42自治体(39・3%)だった。

 北朝鮮が米領グアム周辺へ弾道ミサイルを発射する場合、上空を通過すると名指しされた広島県。23市町のうち10市町しか策定していない。広島市は09年、JR駅の爆破など3パターンを想定したマニュアルを作成。職員が住民を近くの学校へ誘導する流れなどを決め、定期的に改定している。大竹市は07年、市内のコンビナートへの攻撃を想定した内容をまとめた。

 一方、未作成の市町村は、自然災害に備えた計画を優先させたことや、ミサイル攻撃の被害を予測しにくいことなどを理由に挙げる。廿日市市は「過去に類がない事態。自治体独自で作るのは難しく国や県と連携したい」。海田町は「人手が足りないことも要因」と明かす。

実態とずれも

 広島と同じく上空通過を名指しされた島根県でも半数以上の10市町が未作成。その一つ、浜田市は「武力攻撃が現実味を帯びてきた。策定を急がなければ」と危機感をにじませた。

 国がこれまで示しているマニュアル作成例と実態とのずれを指摘する声もある。作成例ではミサイルが着弾するまでの避難誘導に主眼を置く。しかし、北朝鮮から発射された場合、着弾までの時間は短い。広島県危機管理課は「着弾後にどう動くべきかなど、現状の脅威を踏まえた例を示してほしい」と求める。

 5県で唯一、全市町村が作成している岡山県は「大まかな指針も含んでおり、より具体的な内容に見直すよう呼び掛けたい」としている。

<中国地方の市町村の避難マニュアル作成状況>

           作成済み  作成中  未作成
広島県(23市町)  10自治体  0   13
山口県(19市町)  11     1   7
岡山県(27市町村) 27     0   0
島根県(19市町村)  7     2   10
鳥取県(19市町村)  6     1   12
5県計        61     4   42

総務省消防庁調べ、4月1日現在

国民保護法
 武力攻撃などを受けた際に国民の生命や財産を守り、被害を最小限に食い止める手続きを定めた法律。2004年に施行。都道府県、市町村はそれぞれ地域の事情に応じた国民保護計画を作成する。国が住民への避難指示を出した場合、該当エリアの市町村は移動手段や避難先を示した「避難実施要領」を直ちに定め、避難誘導に当たるよう義務付けている。

(2017年9月17日朝刊掲載)

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