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社説・コラム

社説 「太平洋で水爆」発言 威嚇だとしても許せぬ

 北朝鮮外相が米ニューヨークで「太平洋上の水爆実験」の可能性をちらつかせた。トランプ米大統領の国連総会演説を巡り、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「史上最高の『超強硬対応措置』の断行を慎重に考慮する」と表明したことを受けた。

 耳を疑わざるを得ない。太平洋上の大気圏核実験は米英仏がかつて行っていたが、国際的な反核世論の高まりを受けて40年以上も前にピリオドが打たれたはずである。外相の発言が仮に威嚇や脅しだとしても、被爆地としては断じて容認できない。外交官の発言としても不穏当であり、撤回を強く求める。

 私たちが生きる核の時代は、先住民や少数者の土地を奪い、命と健康を脅かす核実験やウラン採掘などによって少なからぬ国々に爪痕を残してきた。

 米国は1958年まで、北太平洋マーシャル諸島で67回の原水爆実験を行っている。54年のビキニ環礁の水爆実験では、静岡県焼津市のマグロ漁船・第五福竜丸の乗組員23人が「死の灰」を浴び、半年後に無線長久保山愛吉さんが死亡した。

 日本で原水爆禁止運動が広がりを持つ歴史的なきっかけである。わが国民は広島、長崎に続いてビキニ環礁でも原水爆による被害を受けており、太平洋上のいかなる国の核実験にも反対する。北朝鮮外相の核実験への言及については、オーストラリアやニュージーランドなども、反発を強めるに違いない。

 現在は独立国であるマーシャル諸島は2014年、核兵器を保有・開発する9カ国を「国際法上の核軍縮義務に違反している」として国際司法裁判所(ICJ)に提訴するなど、被災国の反核感情は極めて強い。そこまで知っての発言なのか。

 さらに「太平洋上の核実験」というが、技術的にどのような手法を用いるというのか。

 小野寺五典防衛相は22日の記者会見で「水爆を運搬する手段が弾道ミサイルであれば、日本上空を通過することも否定できない」と懸念を示した。核を小型化し、長距離または中距離の弾道ミサイルで、何らかの実験をする意図も考えられる。

 実際に行えば、航行中の船舶や上空飛行中の航空機への被害は避けられまい。「死の灰」による汚染も広がるだろう。

 米国の船舶や航空機などに被害が及ぶことになれば、米国内で報復攻撃の声も高まる恐れがある。極めて危険な事態に陥ることは間違いあるまい。

 北朝鮮は今月初めに6回目の核実験を行った。国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議にもかかわらず、日本上空を通過させる弾道ミサイルをまたも発射した。各国は安保理決議を完全に履行し、「瀬戸際戦術」が通用しないことを北朝鮮に悟らせる必要がある。

 むろん、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化して地域の平和と安定を確立することがあくまで目標である。米朝の非難合戦はエスカレートするばかりだが、対話の道を閉ざしてはなるまい。

 韓国外相も北朝鮮外相の発言について「再び緊張を激化させる威嚇的な言葉だ」と批判した。韓国政府は戦術核再配備を求める世論に流されることなく、北朝鮮の核・ミサイル開発の放棄に日米と連携して当たることを最優先すべきである。

(2017年9月24日朝刊掲載)

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