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社説・コラム

『論』 原発と米軍基地 経済効果 安全あってこそ

■論説委員 下久保聖司

 東京電力福島第1原発事故を目の当たりにしたわれわれは、裏付けの定かでない「安全神話」など、うのみにすべきではなかったと肝に銘じている。

 それでも今なお、原発のある地域の首長や経済関係者らは原発再稼働を説く。「地域振興に役立つ」「地元が元気になる」と。ただ、地元への経済効果について、誰もが納得するデータや数字が示されたという話は聞かない。

 目からうろこが落ちる一冊に出合った。今春出版された「崩れた原発『経済神話』―柏崎刈羽原発から再稼働を問う」(明石書店)である。新潟県の地方紙、新潟日報が原発誘致の経緯などを検証したシリーズ連載をまとめている。

 中でも第1章の「地元100社調査」が目を引く。東電が原発を置く柏崎刈羽地域の地元企業をコンピューターで無作為抽出し、建設や運送、サービス、小売りなど多岐にわたる業種の経営者に記者が直接尋ねている。

 現実を浮かび上がらせた問答の一部を抜粋すると―。

 原発建設、運営、定期検査に直接関わる仕事を受注したことがあるか? 「ない」66社

 原発交付金が投入された事業の受注は? 「ない」86社

 他にも原発が停止している現状でも売り上げが減っていないとの回答が3分の2を占める。経済効果を唱えてきた政財界や東電には厳しい結果といえよう。

 一方でまた、この調査は「経済神話」がまだ生き続けていることも示している。新潟日報の取材班が「念のために」とぶつけた最後の7問目の結果が、それだ。

 原発の安全性が確認されたら、再稼働してほしいかとの問いに「はい」と答えたのは66社に上った。真っ先に上がった理由は「地元活性化」で、具体的にどの業種に活気が出るかを尋ねると飲食業や宿泊業が多かったという。

 経済効果の実感は乏しくとも、期待を捨てきれないでいる地方の苦悩が垣間見える。同じように「経済神話」の揺らぎや崩壊に直面している地域がある。在日米軍基地が集中する沖縄県である。

 地元紙の琉球新報が5年前、連載をまとめた「基地と沖縄経済 ひずみの構造」を出版した。第1部のタイトルは「依存神話」だ。

 米兵が外出時に買い物や飲食で落とすお金が減少傾向で、軍関係者向け住宅も基地内居住の義務化で不透明な部分があるという。

 軍関係の施設工事も思うに任せない。保険会社が建設会社の経営状況を審査し、工事完成までを保証する「ボンド制度」により、元請けは大手ゼネコンに集中。地元の中小零細は実入りの少ない下請けや小口に甘んじている。

 「基地に依存していた街は過去のものになってきている」。連載で取り上げている沖縄商工会議所幹部の声は、「依存神話」との決別宣言とも聞こえる。

 米海兵隊岩国基地のこれからに思いをはせたくなる。米海軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機の移転が来春完了すれば米軍にとって極東最大級の拠点となる。

 軍関係者の増加を「商機」と見る岩国商工会議所は新たな消費の取り込みを急いでいる。この夏、備品調達や事務・生活関連サービスの入札説明会を開催。日本人の元基地従業員にアドバイザー業務を委嘱し、発注内容の和訳やホームページ(HP)掲載も始めた。

 沖縄では米兵による事故や事件が後を絶たず、さらには北朝鮮情勢も緊迫の度合いを増している。こうした状況において岩国基地の機能強化は憂慮せざるを得ない。

 ただ問われるべきは日米同盟に前のめりな政府や、艦載機受け入れを容認した岩国市長の姿勢であろう。地域経済が細る中、商工業者たちがビジネス開拓に走るのは無理もない。

 沖縄の「依存神話」を踏まえた上で、岩国商工会議所の長野寿会頭はこう強調した。「基地ビジネスへの理解は、市民の平穏な生活があってこそだと思う」

 日本政府には、在日米軍に綱紀粛正や騒音低減を徹底させる義務がある。暮らしの安全や安心、日米同盟でうたう対等な関係を「神話」で終わらせてはならない。

(2017年9月28日朝刊掲載)

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