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社説・コラム

社説 米の小型核推進 国際社会への裏切りだ

 小型の核兵器の開発や配備の推進を盛り込む―。米国のトランプ政権が策定を進める「核体制の見直し(NPR)」に、そんな案が浮上している。

 国際社会の非難を無視して核実験やミサイル発射を続ける北朝鮮などに対し、米国は抑止力を発揮したいようだ。だが核に核で対応すれば、軍拡はエスカレートするばかりだ。

 言うまでもなく、核兵器は人道に反する兵器である。それを身をもって知る被爆地は、いかなる開発も配備も、断じて許すことはできない。その思いは今や国際社会の大勢になっているのではないか。

 米国では2008年に「核兵器なき世界」を掲げるオバマ氏が大統領に就任し、8年間の任期中、その道筋を探った。実現はたやすくはなかったが、軍縮に向けて政策の見直しも進め、国際社会に示してきた。それだけに、トランプ政権の姿勢は、信義にもとると言えよう。

 トランプ氏はかねて核兵器の刷新や増強に意欲を燃やしてきた。NPRに、小型核を明確に位置付け、核戦力を再び強化しようとの狙いなのだろう。

 爆発力が数キロトンとされる小型核は、通常の核兵器と比べれば被害を局地的に抑えられるとされる。「使える核兵器」とみる向きもあるが、とんでもない。とても容認はできない。

 広島に落とされた原爆の威力は16キロトン。今の核保有国の戦力から考えれば大きくはないが、その年のうちに十数万人の命を奪い、まき散らされた放射線による苦しみは今も続いている。それを忘れてはならない。

 米国の小型核開発は、01年の米中枢同時テロ後のブッシュ政権時代にも検討された。しかし議会で反対され、頓挫した。今回も最終的にNPRに盛り込まれるかは不明だが、緊迫する米朝関係を前に、支持も一定にあるというから予断を許さない。

 確かに、北朝鮮の核開発は世界にとって大きな脅威である。7月には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を2度発射した。核弾頭をミサイル搭載可能な水準にまで小型化することに成功したとの分析を、米国防情報局は8月に発表した。

 だが米国は既に核超大国である。北朝鮮を仮想敵国にして開発や配備を加速すればロシアや中国の反発は必至だ。東アジアの緊張は高まるだろう。

 そもそも核軍縮に努めるべき米国が、自国が核開発を推進しながら北朝鮮に非核化を呼び掛けても説得力がない。

 ただでさえ、トランプ氏は口を極めて金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長をののしり、敵意をあおっている。ティラーソン米国務長官が北朝鮮と接触し対話の道を探っていると公言したことに対しても、「時間の無駄だと伝えた」とツイッターに投稿した。

 こうした姿勢は相手の暴発を招く恐れがある。必要なのは恐怖の上に成り立たせる「抑止」ではなく、「廃絶」だ。そのためには、時間はかかっても軍事力の誇示ではなく、対話で信頼関係を築かなくてはならない。

 トランプ政権の姿勢を批判しない被爆国の日本政府の対応も疑問である。首相は衆院解散を表明した会見で、北朝鮮への「圧力」強化路線についても信を問うと述べた。国際社会を裏切る米国と一体化する危うさを、いま一度認識すべきである。

(2017年10月3日朝刊掲載)

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