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社説・コラム

『潮流』 見学不可のアート

■ヒロシマ平和メディアセンター長 岩崎誠

 横浜市で開催中の国際芸術展「ヨコハマトリエンナーレ」に足を運んだ。気鋭の美術家たちの社会派アートの中で、特に考えさせられる作品があった。「Don’t Follow the Wind(風を追うな)」。福島第1原発事故をテーマに国内外の12組が集い、2015年に始まったプロジェクトの一環だ。

 ミカン箱に地元の福島民報の新聞紙の回収袋、座布団で作った防災頭巾…。横浜名所の赤レンガ倉庫の一角に、福島の被災地の民家を思わせる品々が並ぶ。実はヘッドセットが内蔵されている。頭にかぶると立ち入りが規制された帰還困難区域の光景や荒れた民家、そこに置かれたアートが360度の映像で映る。

 アーティストたちは7市町村に及ぶ帰還困難区域の4カ所に、許可を得てさまざまな作品を据えた。ただ、こうしたバーチャル体験はできても指定が解除されない限り、未来に至るまで直接、見ることはできない。場所も明かされない。そのもどかしさこそが事故の罪深さだろう。

 4年ほど前に帰還困難区域の一角を取材したことがある。伸び放題の雑草にわが物顔で歩くイノシシ。同行した役場職員から「ふんに触らないで」と注意されたのが妙に印象に残る。住民帰還に道路整備と周辺では復興が曲がりなりにも進むが、コアな惨状はなお手つかずに近い。

 衆院が解散され、永田町では党利党略の政局論ばかりが聞かれる。移ろいやすい民意の風を追ううちに、フクシマは置き去りの感もある。

 被爆地はどうなのだろう。原爆の日の平和宣言を振り返ってみる。かつて「私たちの心は皆さんと共にある」とエールを送ったヒロシマは、ことしも原発事故に触れなかった。逆にナガサキは「福島の被災者に寄り添い、応援する」と言い添えた。忘却と風化が進む中で、私たちが立つべきスタンスは明白なはずだ。

(2017年10月5日朝刊掲載)

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