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[2017衆院選やまぐち] 基地周辺 募る危機感 北朝鮮情勢が緊迫化

対話・圧力 見えぬ着地

 安倍晋三首相(山口4区)は衆院選(10日公示、22日投開票)の争点の一つに北朝鮮問題への対応を挙げ、「国難突破解散」とする。一方、野党は半島情勢が緊迫化する状況下で「政治空白」が生じると批判。在日米軍基地がミサイル攻撃の標的とされる危険性も懸念される中、米海兵隊岩国基地(岩国市)を抱える県民は、不安を募らせている。(和多正憲、坂本顕)

 「ミサイルが発射されたもよう。頑丈な建物や地下に避難を」。6月23日、岩国市の通津小であった避難訓練。校内放送で全国瞬時警報システム(Jアラート)の警報音や音声が流れると、児童は一斉に校舎へ入り、両手で頭を隠してうずくまったり、机の下に隠れたりした。

子どもが関心

 同小は基地の南約10キロに位置する。息子2人が通うエステサロン経営河口りえさん(42)は「訓練後、子どもが北朝鮮のニュースに関心を持つようになった。基地が狙われる可能性を現実問題として受け入れなくては」と漏らす。

 ミサイル発射を想定した避難訓練は同月4日、日本海側の阿武町でも中国地方で初めて実施された。ただ、同町の地元自治会長の小田利春さん(65)は「地下道もない田舎でどこへ逃げれば…。自然災害と違い、具体的な危機もイメージできない」と戸惑う。

 北朝鮮は8、9月、日本上空を通過する弾道ミサイルを立て続けに発射。政府は実際にJアラートで北海道など12道県で避難を呼び掛けた。米領グアム周辺へ発射されれば、広島、島根両県の上空を通過するとの「名指し」もあり、隣接する山口県は危機感を募らせる。

避難策定6割

 一方、自治体の備えは急ごしらえだ。県内全19市町で、ミサイル攻撃に伴う避難マニュアルを策定済みなのは約6割の11市町。未策定の自治体の担当者は「県の指導で本年度から準備に入った状況。ここまで事態が緊迫するとは」と明かす。

 6日に最終日となった県議会定例会でも、岩国基地周辺の住民が避難できるシェルター整備を国へ求める意見が相次いだ。この日、ミサイル発射や核実験に抗議する決議案を可決した。

 安倍首相は9月20日(日本時間21日)、国連総会の演説で北朝鮮への対応を「必要なのは対話ではない。圧力だ」と語気を強めた。その1週間後、自ら衆院を解散。「国際社会とともに圧力を最大限まで高める」と強調している。

 対話なのか、圧力なのか―。有権者はこの選挙で何を選択すれば良いのか。「圧力の先」の具体策は見えぬまま、北朝鮮の朝鮮労働党創建記念日である10日に、衆院選は公示される。

全国瞬時警報システム(Jアラート)
 ミサイル発射などの情報を、国が人工衛星を介して地方自治体へ瞬時に伝えるシステム。携帯電話などを通じて国民も受信できる。ミサイルの場合、国はまず「発射情報」を出し、建物や地下への避難を呼び掛ける。日本に落下する恐れがあれば続報を出す。

(2017年10月7日朝刊掲載)

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