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緊急連載 核なき世界への鍵 ノーベル平和賞ICAN <下> 連帯

若い力 世界を巻き込む

SNSで拡散 機運醸成

 約2万のフォロワー(読者)がいる国際非政府組織(NGO)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のツイッター。米ニューヨークの国連本部で核兵器禁止条約の交渉会議が後半に入った6月15日、1枚の広島の写真が投稿された。「BAN NUKES NOW!(今こそ、核兵器禁止条約を)」。日本時間の同日夜、広島市民や被爆者たち約200人が原爆ドーム(中区)前でともしたキャンドルメッセージの様子だ。

 呼び掛け団体の一つ、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)が、旧知のICAN若手リーダー、ティム・ライトさん(32)に写真データを送った。それをライトさんや仲間が自らのツイッターなども使って「拡散」。条約を作る機運の醸成に被爆地広島の声を生かした。会員制交流サイト(SNS)での情報発信に力を入れる。

 「条約の実現へ市民社会をリードした若い力が評価され、素晴らしい」。HANWAの森滝春子共同代表(78)はICANの平和賞受賞を喜びつつ、旧来の反核平和運動の課題に改めて向き合った。

人材の育成急務

 支柱である被爆者は平均年齢81歳を超えた。被爆の記憶を受け継ぎ、核兵器廃絶へ行動する人材の育成は急務だ。「民、官とも、発想を広げるのが大事ではないか。ICANを『かっこいいな』と感じ、反核平和運動に興味を抱く広島の若者が増えれば」と願う。

 101カ国の468団体が加盟し、グローバルな取り組みを展開するICAN。過去のノーベル平和賞受賞団体も名を連ねるが、その歴史は10年だ。長年、核兵器廃絶へ取り組んできたNGOや専門家が、知識や経験で支えた面もある。

 例えば、米国など3カ国に拠点を持つ国際反核法律家協会(IALANA)。既存の国際人道法に照らしても核兵器の使用は違法と主張してきた。「核兵器は対人地雷やクラスター弾のように禁止されておらず、条約で違法化を」と押し出したICANのメッセージを、「単純化しすぎ、『条約に入らなければ合法』と保有国に逆手に取られかねない」などと指摘。両者は議論して関係各国へ働き掛け、禁止条約には現行法下でも核兵器の使用は違法と明記された。

科学者ら後押し

 条約交渉は、ICANに限らず、科学者や自治体の長ら、市民社会からさまざまに後押しした。「hibakusha」という文言が条約の前文に盛り込まれたのも、被爆国の市民との連携があってこそだった。

 3月の交渉会議開始前、市民や被爆者の有志らが東京都内で開いた会合で、条約の規範性を高めようとIALANA理事で明治大の山田寿則兼任講師が提案。「やろう」と沸いた。この場にいた日本被団協の藤森俊希事務局次長(73)が交渉会議初日の演説で「条約にノーモアヒバクシャの訴えを」と要請。副議長国オーストリアなどが同調した。「被爆者をはじめ、市民社会の代表としてのICANの受賞は大いに励みになる」と山田さんは言う。

 ノーベル賞委員会は6日の授賞発表時、「条約だけでは核兵器を一発も削減できない」とくぎを刺した。条約に反発する核保有国や「核の傘」の下にある日本をどう動かすか。受賞の喜びに浸りながらも、市民社会は先の一手に考えを巡らせている。(水川恭輔)

(2017年10月9日朝刊掲載)

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