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5年前の言葉 現実に 大学院時代インターンの本紙記者

 「核兵器の非人道性を世界に伝え、共鳴する中小国と禁止条約をつくる。数年のうちにできる」。ICAN若手リーダーのティム・ライトさんは2012年夏、事もなげに話した。5年後、その言葉通りに核兵器禁止条約が国連で制定され、正直信じられない思いもする。

 核軍縮を専攻していた大学院生のころ、ICAN発足の地、オーストラリア南東部メルボルンで1カ月インターンシップをした。その時、面倒を見てくれたのがライトさんだった。当時、常勤スタッフは2人。学生インターンやボランティアが日替わりで顔を出し一緒に作業をしていた。

 取り組みの一つに、平和を象徴する折り鶴を各国の政治指導者に届け、禁止条約への支持を求める「折り鶴プロジェクト」がある。条約に賛同しそうな国を探しては、実際に指導者へ働き掛けてくれる現地のNGOをインターネットなどで検索。メールを出し、協力を頼む作業を繰り返した。

 インターンの私も手伝った。地味な作業ではあったが、有志国とNGOが連動して実現させた対人地雷禁止条約などをモデルに、核兵器禁止条約の実現へパートナーとなる国を探し出すという戦略性があった。

 ICANのホームページには、実際に折り鶴を手渡した国々の写真が出ている。条約制定交渉会議で議長国を務めたコスタリカも含まれ、大統領の署名付きメッセージが載っている。

 戦略性と並んで印象深いのが、新時代を感じさせるスタイル。若い活動家が中心となり、インターネットでの動画配信やSNSを駆使し、一般市民に直接メッセージを届ける。核ミサイルをへし折ったロゴマークに代表される斬新性。「核兵器廃絶の前に、非保有国だけであっても法的禁止を目指す」とする新提案には当初、NGOの中にも反対の声も多かったが、やがて合言葉となり、実現した。

 9月20日、各国政府による禁止条約への署名が始まり、ライトさんからメールが届いた。「次はオーストラリアと日本を条約に巻き込むことが仕事だね」。「核廃絶」をその名に刻むICANにとって、条約やノーベル平和賞は「核兵器のない世界」へと向かう歩みの一つの通過点でしかない。(宮野史康)

(2017年10月9日朝刊掲載)

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