社説・コラム

『 潮流』 オバマ氏への手紙

■経済部長 吉原圭介

 職場の冷蔵庫に、米国のオバマ前大統領の写真をあしらったマグネットが貼ってある。「MISSING(尋ね人)」の大見出し。小さな字で「この男を見ましたか」「見つけたらホワイトハウスに送り返してください」と書いてある。今月にかけて出張した記者の米国土産だ。

 2008年11月、オバマ氏が大統領選で初当選を決めたとき、朝刊に挟み込む体裁の定期連載「ひろしま国」の編集長をしていた。10代の記者が平和に関する取材、執筆をする表裏2ページの「新聞」だった。すぐに広島訪問を呼び掛ける手紙を書こうというキャンペーン「おいでよオバマさんプロジェクト」を展開した。

 被爆者や子どもに手紙を寄せてもらい、オバマ氏が通ったハワイのプナホウ学園の生徒をはじめ多くのボランティアに英訳を依頼。翌夏、335通をホワイトハウスに届けた。

 結局、訪問が実現したのは昨年5月。7年かかった。もちろんこのキャンペーンだけがオバマ氏の心を動かしたとは思っていない。原爆を投下した国の現職大統領として、核超大国のリーダーとして、投下の決断がどんな非人道的な結果をもたらすのかを五感で知ってもらいたいと願った人々の、いろんな形でのメッセージが届いたのだと思う。

 しかし、あれから1年5カ月―。オバマ氏はどこで何をしているんだろう。被爆地で見聞きした経験は、核兵器廃絶へ向けた行動につながっているのか。一向に見えてこない。

 先週の金曜、ことしのノーベル平和賞がICAN(アイキャン)に贈られることが決まった。国際非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」だ。その報道に触れ、やはり同賞を受けた「先輩」として、彼は道義的責任をどう感じただろうか。今、あえて言いたい。たった52分だったとはいえ、平和記念公園に立ったあなたに。YES YOU CAN―。

(2017年10月12日朝刊掲載)
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