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[私の争点 2017衆院選] 島根大法文学部 吹野卓教授(60)=松江市

原発 根拠ある議論必要

 今回の衆院選で、原発再稼働を含むエネルギー政策は争点になっているだろうか。現状ではとってつけたような議論が多く、疑問と言わざるを得ない。

 「安倍政権はちょっとどうなのか」というムードの中、東京都の小池百合子知事が登場した。「国難突破」を掲げる安倍晋三首相も含めて政治が劇場化し、劇場の主役たちの間で原発問題も「政治の道具」にされている印象を受ける。

  ≪島根大の教員らでつくる山陰研究センターは、2014年に米子市、15年は松江市で、中国電力島根原発(同市)への意識を問うアンケートをした。松江市では、島根原発2号機の再稼働に、原発5キロ圏の鹿島、島根町よりもその他の地域が否定的な回答の割合が高いなど、5キロ圏の内と外で意識に差がみられた。≫

 2号機再稼働への賛成は、原発に近く関わりの深い鹿島、島根町で41・4%に対し、その他で28・7%だった。松江市全域では、原発の維持・推進に賛成が36・5%、反対44・5%、「どちらともいえない」が19・0%となっていて、今も傾向に大きな変化はないように思われる。

 原発への考え方は、他の論点とも密接に結びついている。調査では、原発に肯定的な人は日本の経済成長や国際的な地位に関心を示す傾向があり、否定的な人は格差是正やデモによる政治参加に親和的だった。

 原発の問題に明確に意思表示したい有権者にとって、各党のエネルギー政策は「ベスト」ではなく、「ベター」の選択肢にとどまるのではないか。

 ≪安倍政権は安全確保を前提に、原発再稼働を推進するとの立場だ。一方、希望の党は「2030年原発ゼロ」、立憲民主党は一日も早い原発ゼロの実現、共産党は即時廃炉など、各党の主張はさまざまだ。≫

 原発問題は本来、先を見据えた議論が不可欠だ。核燃料サイクルの前提となる使用済み核燃料の再処理では、無害化するのに数万年以上かかるとされる高レベル放射性廃棄物が出る。「国家百年の計」どころではない。「国家万年の計」が求められている。

 子孫にどのような社会を残すかを考えたとき、原発の問題は本気で議論すれば大きな争点になりうるが、これまでそうなってこなかった。今回は準備期間が短く、各党とも政策を練る時間が少なかったが、その中でも根拠のある議論を戦わせ、有権者を納得させる選択肢を示す必要がある。(聞き手は秋吉正哉)

(2017年10月14日朝刊掲載)

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