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社説・コラム

天風録 『大政奉還150年』

 京都・二条城。大広間に居並ぶ諸藩の重臣に、徳川15代将軍が政権を朝廷に渡す意を伝える。旧暦10月14日の大政奉還から150年。あまり知られていないが、広島藩が深く関わっている▲土佐藩に続く「2番手」ながら建白書で政権返上を促した。いや大政奉還の構想を先に練ったのは広島藩だ―との説もある。薩長と組み軍事的な圧力を画策しつつも、望んだのはあくまで平和解決。藩内の「知恵袋」あってこその温和路線と言える▲家老の職にあった辻将曹(しょうそう)である。無用の血が流れ藩の財政を損なういくさを嫌った。幕府の長州攻めに体を張って抵抗し、謹慎させられたこともある。維新後間もなく政界から身を引く▲辻のような非戦論者が新政府のイニシアチブを取っていたら―。そう夢想するのは広島出身で歴史に詳しい作家の穂高健一さんだ。「戦争を繰り返す軍事国家とはならなかったかもしれない」。富国強兵ではなく「富国富民」を目指しただろうとも▲坂本龍馬ら志士が立ち寄った呉市豊町の御手洗できょう午後、穂高さんの講演など150年記念イベントが開かれる。北朝鮮に圧力一辺倒で、「強兵」に走る今の政府の姿は辻の目にどう映るだろう。

(2017年10月14日朝刊掲載)

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