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連載・特集

地域と歩む 新聞週間に寄せて 基地問題 粘り強く迫る

 「8月6日ごろからE2D早期警戒機が岩国基地に飛来する」。同4日、岩国市役所の市長応接室。中国四国防衛局の赤瀬正洋局長が福田良彦市長に切り出した。広島原爆の日と重なる可能性がある―。思わずメモを取る手が止まった。

 E2Dは、米海軍厚木基地(神奈川県)から米海兵隊岩国基地(岩国市)へ移転する空母艦載機の第1陣だ。中国新聞岩国総局の記者は6日、職場や基地滑走路を見渡せる川沿いの堤防道路に待機し、飛来を警戒した。しかしE2Dの動向をつかめず、本社デスクからの問い合わせにも「情報がない」と繰り返すしかなかった。

 移転開始に当たり「8・6」には配慮したのか。在日米海軍司令部に質問を投げ掛けると、「保安上の理由で運用スケジュールには言及しない」との回答。結局、台風の影響で到着は3日遅れたが、長崎原爆の日と重なった。山口県と岩国市に国から飛来情報が入ったのは、厚木基地を離陸した直後。米軍の運用が最優先される現実と、取材の難しさをあらためて突き付けられた。

 賛否を巡って民意を二分するなど、地域を翻弄(ほんろう)し続けた移転問題。その開始が予定された2017年に入り、岩国総局は防長本社と連携しながら、「変わる岩国基地」のタイトルで連載や特集を随時展開している。厚木基地周辺や沖縄県での取材も踏まえ、移転を巡る動きを伝えてきた。

 国の説明では、来年5月ごろまでに4機種の計61機が順次配備され、岩国基地は極東最大級の米軍基地に変貌する。軍人と軍属、家族計約3800人も一緒に移り、米軍関係者は1万人を超える見込みだ。市人口の1割弱に相当する。

 その受け皿として、基地の西約3キロにある愛宕山地区には全262戸の米軍家族住宅が完成。米軍と市民が共同使用する運動施設の整備も進む。「基地との共存」を掲げる市は11月4日に、運動施設を活用した初めてのイベントを基地と共催する。

 地元経済界は米国人の増加を「商機」と捉え、動きを活発化させている。さまざまな交流や経済活動を伝えることは、日米の相互理解を深める手助けになるはずだ。

 一方、米軍機の増加に伴う騒音悪化や事故を懸念する声が現実にある。それは基地周辺にとどまらず、低空飛行訓練の目撃が相次ぐ広島県西部・北部、島根県西部へも広がっている。米軍機の事故やトラブルは後を絶たず、今月11日にも沖縄県で大型輸送ヘリコプターが炎上、大破した。

 「自分が何を言おうとどうにもならない」。治安悪化を心配する岩国市の主婦(65)はこぼした。艦載機移転で地域はどう変わっていくのか。「声なき声」にも向き合い、粘り強く実態に迫りたい。(松本恭治)

(2017年10月16日朝刊掲載)

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