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[地域の明日 2017衆院選] 実戦的訓練 募る不安 米軍機低空飛行

岩国基地強化 騒音増す懸念

 爆音をとどろかして急降下する機体から火の玉が二つ、後方へ放たれた。11日午後2時半ごろ、広島県北広島町の上空。「米軍機はよく見るが、あんなのは初めて。燃えかすが落ちてくるんじゃないかと…」。町内の農園で作業していた岩本晃臣さん(49)は、目撃した時の恐怖を振り返る。

火の玉を放つ

 町芸北支所の西2・5キロ。一帯には民家や診療所、店舗も点在する。機体は急上昇と急降下を繰り返し、30分余りの間に10回程度、火の玉を放ったという。岩本さんをはじめ複数の町民が動画を撮影。町にも問い合わせがあった。

 火球の正体は火炎弾「フレア」。赤外線探知などで追尾してくるミサイルを回避するための熱源だ。小野寺五典防衛相は17日、地元の要請を受け照会していた米側から、海兵隊岩国基地(岩国市)所属のFA18戦闘攻撃機がフレアの訓練をしたとの報告を受けたと明らかにした。

 西中国山地の米軍の訓練空域「エリア567」に掛かる同町。米軍機によるとみられる低空飛行の目撃件数は広島県内で最も多い。山里上空でのフレア訓練について、軍事評論家は、北朝鮮情勢が緊迫化する中、実戦を見据えて実施したとの見方を示す。

北朝鮮に圧力

 日米同盟を基軸とした安全保障政策を重視する安倍政権。衆院選に向けた自民党の公約では、ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮に対し、米国と歩調を合わせて「圧力強化」を掲げる。「在日米軍再編を進める」とも明記した。

 その在日米軍再編で、岩国基地は極東最大級の基地へと変貌する。日米合意から10年余りの曲折を経て、山口県や岩国市は6月の議会で受け入れを表明。8月、米海軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機の移転が始まった。

 移転問題の決着に合わせたかのような米軍側の動きが続く。7月10日。岩国市街地は午後10時ごろまで米軍機の訓練による騒音に包まれた。県市が国に移転容認を伝える前夜。市には1998年1月の夜間離着陸訓練(NLP)を除き、1日当たり過去最多の155件の苦情が殺到した。「あれが日常にならなければいいが」。同市中津町の主婦上村雅子さん(71)は今後の暮らしを案じる。

 9月上旬には厚木基地で、5年ぶりに陸上空母離着陸訓練(FCLP)が実施された。岩国では2000年を最後に途絶えているが、市民から「米軍の運用次第で強行されるのでは」と不安の声も上がる。

 訓練空域のある広島、島根両県でも騒音悪化の懸念は広がる。浜田市など島根県西部の5市町長でつくる対策協議会は今月6日に上京し、低空飛行訓練の中止などを国に求める予定だった。しかし、突然の衆院解散で延期された。

 フレアの訓練が目撃された北広島町には先月21日、外務、防衛両省の担当者が実態の把握のため視察に訪れたばかりだった。同行した同町八幡地区の小笠原幸信・区長会長(62)は口調を強める。「どうして不安をあおる訓練をするのか。情報公開も含め、国は米側にしっかり働き掛けてほしい」。それは、基地のある地域での長年の訴えと重なる。(松本恭治、山田太一、梨本晶夫)

米空母艦載機移転計画
 日米両政府が2006年5月に合意し、今年8月に第1陣が米海軍厚木基地(神奈川県)から海兵隊岩国基地(岩国市)へ到着した。11月ごろには激しい騒音の主因とされるFA18スーパーホーネット戦闘攻撃機が移り、来年5月ごろまでに計4機種61機が移転する予定。基地所属機は約120機に倍増する。米軍人や軍属、家族計約3800人も移り、基地の米軍関係者の総数は1万人を超える見込み。

(2017年10月18日朝刊掲載)

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