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連載・特集

[2017衆院選やまぐち] 事件事故増 懸念の声 岩国基地 

地位協定の在り方背景

 米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機の移転が始まった米海兵隊岩国基地(岩国市)。完了すれば同基地の米軍関係者は1万人を超え、市人口の1割弱を占める。市民には日米交流などを期待する声がある一方、事件事故の増加への懸念も根強い。(松本恭治)

 岩国基地の西約3キロに広がる丘陵地、愛宕山地区。艦載機とともに岩国へ移る軍人や家族の受け皿として、国は7月末、262戸の米軍家族住宅を完成させた。米軍と市民の共同使用を想定した運動施設の整備も着々と進める。

 「米軍関係者が増えれば、治安は確実に悪くなると思う」。同地区そばの南岩国町の主婦(65)は表情を曇らせる。周辺には学校や病院もある。「ひとたび重大事件が起きれば交流どころではない」

 統計的に見れば、岩国基地の米軍関係者による事件は多くはない。県警によると、2012~16年に県内であった軍人・軍属の刑法犯は年間1~3件。今年は8月末時点で窃盗と準強制わいせつの2件となっている。ただ、沖縄県の空軍嘉手納基地で働く元海兵隊員の軍属が起こした女性暴行殺害事件(昨年4月)などが市民の不安を増幅させる。

「未達成」は9件

 艦載機受け入れを巡り市は08年、43項目の安心安全対策を国に要望した。しかし100%達成には至っておらず、市の評価で達成21件▽進展中13件▽未達成9件。治安対策に掲げた「日米地位協定見直し」「基地外居住者の居所の明確化」も未達成項目に含まれる。

 犯罪と並んで増加を不安視する声のある交通事故では、市民につらい記憶もある。米軍家族住宅そばの牛野谷町で10年9月、近くの60代男性が岩国基地所属の軍属女性の車にはねられ死亡。女性は4カ月間の運転制限(通勤時を除く)などを科された一方、地位協定などを理由に不起訴処分となった。

見直し再三要請

 地位協定が米軍関係者の事件事故の背景にあるという不満は各地で聞かれる。山口、広島など米軍基地や関連施設のある15都道府県でつくる渉外知事会も再三、地位協定の見直しを国に求めるが、抜本的な改定には至っていない。

 牛野谷町の百合ケ丘自治会の石田眞信会長(72)は「今のような日米不平等の地位協定では、事件事故の不安が尽きない。国はしっかり対応してほしい」と強調する。

 安倍政権は北朝鮮の脅威を「国難」と位置付け、衆院選では日米同盟を基軸とした安全保障政策への支持を訴える。外交問題に加え、足元の安心安全をどう確保するのか―。選挙戦ではそうした視点も求められる。

米空母艦載機移転計画
 在日米軍再編に伴い、米海軍厚木基地から空母艦載機が米海兵隊岩国基地へ移転する計画。県や岩国市は7月、移転容認を国に伝えた。8月に第1陣のE2D早期警戒機5機が到着し、来年5月ごろにかけて計61機が移転する予定。艦載機とともに米軍人約1700人、軍属約600人、家族約1500人の計約3800人も岩国へ移る見込み。

(2017年10月20日朝刊掲載)

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