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社説・コラム

社説 トランプ米大統領来日 「蜜月」だけで大丈夫か

 米国のトランプ大統領が就任後初めて日本を訪れた。アジア5カ国歴訪の最初の訪問先としてである。安倍晋三首相はゴルフを楽しむなどして歓待し、個人的な親密さを見せつけた。

 核実験やミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対し、思惑通り日米両国の緊密な連携はアピールできたのかもしれない。ただ、「蜜月」ぶりを強調するだけで課題山積の現状を打開する道筋は開けるのだろうか。

 首脳会談自体は時間も短く、友好関係を示すセレモニーのようにも見えた。課題にきちんと向き合い、互いに言うべきことは言ったのか、疑問が残る。

 最大の懸案である北朝鮮への対応について、安倍氏は、武力行使を含む全ての選択肢がテーブルの上にあるというトランプ氏の立場を一貫して支持するとした。北朝鮮が政策を変更するまで圧力を最大限にまで高めていくことでも一致したという。

 北朝鮮はどう考えているのか。金一族による支配を米国に認めてほしいだけなら、話し合いの余地があるのではないか。圧力一辺倒で追い詰めれば暴発を招くだけだろう。対話の扉を常に開けておく必要がある。トランプ氏が面会した拉致被害者の家族たちも、武力行使ではなく、対話による被害者の救済を求めているはずだ。

 トランプ氏が次に訪れる韓国や中国との温度差も気になる。日米両国の強硬路線に比べ、韓国や中国が消極的なのは、暴発による自国への影響を懸念しているのだろう。

 経済制裁という包囲網を実効性のあるものにするには、韓国や中国、ロシアを含めた国際社会の理解と協力が欠かせない。しかし首脳会談では「自由で開かれたインド太平洋」構想実現への協力でも一致した。南シナ海など海洋進出を進める中国への対抗策だ。これで、北朝鮮の非核化に向けて中国の協力が得られるのだろうか。

 トランプ氏はまた、日本が上空を通過した北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃しなかったことを批判していたという。共同記者会見でこの点について問われて、「日本は米国から防衛装備を買う。上空を飛ぶミサイルを即座に打ち落とせるようになる」と答えた。ジョーク交じりのようにも聞こえたが、こんな調子で武器購入や軍事介入を求められたら、かなわない。

 実際は、ミサイルの高度などから迎撃は技術的に困難だった上、日本に落下する可能性はなく対抗措置は不要との政府の判断があった。もし日米が迎撃に踏み切れば北朝鮮の過剰反応を招く可能性も否定できない。

 来日後、トランプ氏は「米国は自由で公平、互恵的な貿易を追求する」と両国間の貿易不均衡への不満も漏らした。首脳会談で、経済対話の枠組みで協議を続けることにしたが、それほど突っ込んだ話はしなかったようだ。蜜月を強調するため、対立点に関する議論を避けたのであれば本末転倒である。

 国際社会がトランプ氏に注ぐ視線は厳しさを増している。環太平洋連携協定(TPP)や、地球温暖化防止に関するパリ協定に続き、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの離脱を宣言した。安倍氏が仲の良さを強調するのであれば、「米国ファースト」を改めるよう、きちんと忠告すべきだろう。

(2017年11月7日朝刊掲載)

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