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社説・コラム

『潮流』 憲法を考える「不幸」

■論説委員 田原直樹

 雨が降る火曜の午後、横浜市の戸塚駅前でバス待ちの長蛇の列に出くわした。何とか次の便に乗れたが、終点までぎゅうぎゅう詰めの立ちっぱなし。乗り合わせたのは、憲法を考えようという人々である。一種の熱気が漂っていた。

 「憲法が変わる(かもしれない)社会」と題したセミナーが明治学院大横浜キャンパスで始まった。同大教授で作家の高橋源一郎さんが識者を迎え5回開く。初回は早稲田大法学学術院の長谷部恭男教授だった。

 2年前、安保法案に対し違憲の見解を示した憲法学者は冒頭、会場を見回すとこう語り掛けて笑わせた。「市民がこんなに熱心に憲法を考えなきゃいけない社会は多分、不幸ですよ」

 改憲が取り沙汰される状況は、社会が揺らいで変わりかねない岐路、あるいは危機に違いない。

 衆院選での自民党大勝で改憲論議の加速が予想される。長谷部さんが語ったように「政権公約では最後のページに少し触れてあるだけ」だが、首相はきのうの所信表明でも意欲をにじませていた。

 セミナーは広島と尾道ゆかりの2人が、9条や立憲主義を巡り問答。憲法の解釈は許されるか、自衛隊と9条は矛盾しないか…。改憲か護憲かを言う前にまずは知ろうと、わかりやすく核心に迫った。論点は高橋さん編の岩波新書「読んじゃいなよ!」に詳しい。

 600人以上が講義室を埋め尽くし、立ち見や床に座る人も。「8割が白髪頭だね」と高橋さんが言ったように、多くは団塊の世代かさらに年かさの人たちである。その熱さに感服したが、学生たちはどこへ。

 幾人かいた学生に聞くと皆、就活やバイトなど公私の「私」の方で手いっぱいなのだと言った。

 不幸だが、とことん憲法を考えなきゃならない時である。まずは学び、老いも若きも議論しちゃいなよ。

(2017年11月18日朝刊掲載)

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